スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第9回は、第2戦アルゼンチンGPで大きな話題となったバレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスの接触。この出来事を青木宣篤がレーシングライダー目線で解説する。
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MotoGP第2戦アルゼンチンGPで最大の話題になったのは、表彰台の3人には非常に申し訳ないが、やはりマルク・マルケス vs バレンティーノ・ロッシの一件だろう。
詳しい状況説明はすでにたくさん報じられているから避けるが、決勝レースで後方から迫ったマルケスが、ロッシに突っ込む形で転ばせてしまったあの出来事を、ここではレーシングライダーの立場から解説してみたい。
マルケスとロッシのクラッシュ、あれはもう、仕方ないです……。確かに相手を転ばせるなんてあってはならないことだし、今回のアルゼンチンGPではマルケスがやらかしすぎたのも事実。レースウイーク中に何度もヒヤリとする場面があり、決勝ではついにロッシを転ばせてしまったのだから、責められるのも分かる。
でも、バイクでレースをしている限り、どうしても起こり得ることでもあるんですよね……。
最大の問題点を挙げるとすれば、ハーフウエットという難しいコンディションで、マルケスが他のライダーに比べて速すぎたこと、だ。
通常のドライコンディションならあり得ないほどの速度差だった。普通なら各ライダーのブレーキングのタイミングはだいたい揃っていて、抜かれる側は「ここで頭を出されたら引かなくちゃ」とココロの準備もできる。
だが、今回のマルケスはあまりに速かった。他のライダーよりずっと高いスピードでコーナーを曲がれてしまっていたのだ。
コーナリングスピードは10km/h以上の差があったはずだ(通常なら、速度差があったとしても3~4km/h)。他のライダーからすると、すでにマシンの倒し込みが始まっているタイミングで猛然とマルケスが突っ込んでくることになる。「えっ、ココで!?」とビックリするし、ハーフウエットにより走行ラインが狭いがゆえにクリアランスも少なく、ギリギリで抜かれるから非常に怖い。
そしてついにロッシと接触し、転ばせてしまった、というワケだ。