スズキから5月24日、日本での発売が発表された新型カタナ。その開発に至った経緯と開発のなかで苦心したポイントなどを中心に、発表会当日の開発者の談話と、その後行った開発者インタビューをお届けする。“現代のカタナ”はどのようにして復活を遂げたのだろう。
まずはカタナの歴史をひも解いてみよう。1980年にドイツのケルンモーターショーにGSX1100Sカタナがプロトタイプとして出品され、話題を集めた。ヨーロッパではその翌年から発売がスタート。日本仕様車は1982年、GSX750Sとして発売されたのが最初のモデルとなる。以降、250ccや400ccモデル、1994年にはGSX1100Sが日本で発売。しかし、2000年のファイナルエディションをもって一度、生産を終了していた。
そんなカタナの復活が明らかになったのは、2018年10月にドイツのケルンで行われたインターモト。ここで新型カタナが正式発表された。
新型カタナのスペックについて少し触れておこう。水冷4サイクル直列4気筒DOHC 4バルブエンジンを搭載。このエンジンは、2005年から2008年のGSX-R1000のエンジンをベースとしてストリート用にチューニングされている。「現代のオートバイということで、空冷という選択肢はなかった」ということだ。
最高出力は10000回転で148馬力を発生。前後のサスペンションは一から調整を行い、多くの灯火器類は、新型カタナのために開発された。ヘッドライトは新設計LEDヘッドライトだ。
ほか、イージースタートシステムや3つのモードを持つトラクションコントロールシステムを搭載。メーターはフルデジタルで、イグニッションをオンにすると“刀”の文字が浮かび上がる遊び心も加えられている。
新型カタナがよみがえった背景には、“カタナ3.0コンセプト”の存在があった。カタナ3.0コンセプトは2017年11月、イタリアで開催されたミラノショーに参考出品されたもので、モトチクリスモ社という雑誌社の企画によって生まれたもの。このモデルに対する市場からの反響の大きさや、スズキとしてもデザインに共感したことから、量産化が決まったという。
二輪企画部チーフエンジニアの寺田覚氏は「カタナはスズキにとって大切なブランドで、2000年にファイナルエディションが出たあと、次のカタナにはどのような(形の)カタナがあるのか、という話は、社内でことあるたびに上がっていました」と語る。
しかし、それまではなかなか実現に結びつくことがなかった。そこへ2017年に登場したのが、カタナ3.0コンセプトというモデルだったのだ。
「こういうのもアリなのか、というのが(カタナ3.0コンセプトを見たときの)正直なところでした。こういうアプローチの仕方のカタナもあるのか、と。これなら我々がもう一度造るカタナにできる、ということで、社内で進めれられたのです」
イタリアの雑誌社が企画したカタナ3.0コンセプトがきっかけとなり、スズキによって新型カタナが誕生したというわけだ。
「最初のカタナは、外部にデザインをお願いしました(※1980年ケルンショーに登場したプロトタイプのカタナはドイツ人デザイナーによるもの)。今度は我々からお願いしたわけではありませんでしたが、『これがカタナだ』と呼べるデザインが外からやってきました。(新型カタナを開発するのは)今しかない、と」
実はこのカタナ3.0コンセプト、「現地の法人に打診はありましたが、スズキ本社としては特に関わっておらず、出品されたものを見ました」と寺田氏。「ですから、当時は社内としても衝撃が大きかったですね」と、カタナ3.0コンセプトはスズキ社内でも旋風を巻き起こしたようだ。
カタナ3.0コンセプトが世に現れてから翌年の2018年1月には、スズキは開発を決定。発表の場を2018年10月のインターモトと定め、1年ほどという短期間での新型カタナ開発がスタートした。24日の発表会では開発者として壇上に立った寺田氏含め、車体設計の三池翔太氏、テストライダーの大城光氏なども口々に、短期間で行われた開発のなかにあった苦労をにじませていた。なぜ、新型カタナは1年という短期間で開発が行われたのだろう。
「(カタナ3.0コンセプトで)反響をいただいたのですから、熱が冷めないうちに新型カタナにしたかった、というのが一番の理由です。各部には非常に負担をかけましたが、なんとしても2018年に発表して、2019年の春に発売しようと計画をしました」