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MotoGP ニュース

投稿日: 2019.06.13 19:11
更新日: 2019.06.13 20:40

量産車レース出身のライダーがレース専用マシンで戦う難しさ/ノブ青木の知って得するMotoGP

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MotoGP | 量産車レース出身のライダーがレース専用マシンで戦う難しさ/ノブ青木の知って得するMotoGP

 レース専用開発のプロトタイプマシンと量産車ベースのプロダクションマシン、いったい何がどう違うのだろうか? 「何がどう」って、エンジンも車体もすべてがまったく違うワケだが(笑)、大まかにして最大の違いは、設計時に想定する速度域の高さだろう。

 レース専用車両は、非常に高い速度域で走ることを想定して設計されている。一方の量産車は、低速域から高速域まで幅広い速度域に対応できるよう作られている。さらに言えば、プロトタイプマシンは速く走ることしかアタマにないレーシングライダーが乗ることが前提で、プロダクションマシンは幅広いスキルのライダーが幅広い用途で走らせることを想定している。

 まとめると、プロトタイプマシンはピンポイントでパフォーマンスを発揮し、プロダクションマシンはオールマイティ、ということになる。裏を返せば、ハイスピードでもきっちりとバイクを曲げられるテクニックが必要なプロトタイプマシン、誰が乗っても(ある程度は)曲がってくれるプロダクションマシン、となる。フルカウルを装着して見た目は似ているが、まったく別モノなのだ。

 さて、話を分かりやすくするために、ここからはプロトタイプの世界最高峰・MotoGPマシンと、プロダクションの世界最高峰・SBKマシンに焦点を絞ろう。この両マシンの特徴を言い表すなら、ズバリこうなる。

「MotoGPマシンは、ライダーの限界が限界」

「SBKマシンは、マシンの限界が限界」

 うーむ、我ながら分かりやすい。……えっ!? 分からないって? ですよね(笑)。

2019年型スズキGSX-RR(アレックス・リンス機)
レース専用に作られたプロトタイプマシン

 MotoGPマシンは、恐ろしく高い性能を備えている。だからモノの限界に到達する前に、ライダーが限界に達してしまう。「これ以上無理!」とライダーの側が音を上げてしまい、マシンを限界域まで持ち込むのが非常に難しい。けれど、限界域まで行かないと勝負にならない……。今、MotoGPマシンの限界を超えられるのはただひとり、そう、マルク・マルケスだけだ。だからマルケスvsその他のライダー、という図式になっている。

ジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)
ジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)

 一方のSBKマシンは、マシンの限界よりライダーの限界の方が高い。だからすぐにスライドしたりして、タイムロスするような場面が多々見られる。これ、別にどっちが優れてるという話じゃない。実際、SBKで4連覇しているジョナサン・レイは、SBKマシンでMotoGPのコースレコードを上回ったこともある実力者だけど、2012年にケーシー・ストーナーの代役でMotoGPに2戦参戦した時は、さすがに優勝はできなかった(でもしっかり8位/7位でポイントを獲った)。どっちみち限界まで持って行かなければレースでは勝てないから、大変さは変わらない。世界で勝つっていうのは、どのカテゴリー、どのジャンルでもスゴイことなのだ。

 ただ、今はプロトタイプマシンでキッチリとステップアップしてきたライダーの方がMotoGPでは有利で、SBKライダーがMotoGPにスイッチしてもすぐには結果が出しにくいのは確か。何しろ限界が高いMotoGPマシンだから、そこに届くにはどうしても時間がかかるのだ。逆にアルバロ・バウティスタのように、MotoGPからSBKにスイッチしたライダーは、割と上位進出しやすいようにも思う。MotoGPライダーの限界が、SBKマシンの限界を上回っているからだ。

最高峰クラス8年目で初優勝を果たしたダニロ・ペトルッチ
最高峰クラス8年目で初優勝を果たしたダニロ・ペトルッチ

 これでようやくペトルッチ優勝の話に戻れる……。量産車のレースからプロトタイプのMotoGPにやってきたペトルッチが優勝したことが、いかに大変だったか、ここまでの説明の長さからもご理解いただけるんじゃないかと思う(笑)。

 ドゥカティのファクトリーマシンに乗ったからって、おいそれと勝てるものじゃない。ファクトリーマシンに至っては限界がハンパなく高いから、そこに自分のレベルを届かせるのは並大抵のことじゃない。しかも、勢い任せの走りじゃダメ。タイヤを理解し、電子制御を理解し、マシンのコンディションを緻密に分析しながら精密にセットアップしなくちゃならない。

 ペトルッチは8シーズンをかけてジワジワとプロトタイプマシンの走らせ方をつかみ、今年ようやく手にしたファクトリーマシンに近付くべく努力してきたのだ。苦労人だけに、喜びもひとしおだっただろう。

パルクフェルメで健闘を称え合うペトルッチとドヴィツィオーゾ
パルクフェルメで健闘を称え合うペトルッチとドヴィツィオーゾ

 彼は今年、みんなに好かれる人柄を生かし(?)、私生活もアンドレア・ドビツィオーゾのスリップストリームに入っていた。つまり、ドビちゃんの後をぴったりマークして、トレーニングも一緒にこなし、普通なら教えてもらえないようなことを教わりながら、自分を高めていたのだ。一般的にレースではチームメイトが直近のライバル。そんなペトルッチにほいほいとヒミツを教えてしまうドビちゃんもいいヤツだが、この勝利を機に警戒モードに入るかもしれない。

 チームとしてはうれしい悲鳴だろう。これまではドビちゃんがエースライダー、ペトルッチがセカンドライダーと位置づけがハッキリしていたが、これからはそうもいかない。「サポートに徹するよ」とコメントしているペトルッチだけど、来年の契約がないから、当然頑張る。頑張るってことは勝ちを狙うということで、ペトルッチは勝利の美酒を味わってしまったのだ……。ドゥカティのファクトリーチームだけを観ていても、これからシーズンはさらに面白くなりそうだ。

■青木宣篤が考えるドゥカティ新エアロの効果


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