イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラムをお届け。第14戦アラゴンGPではウイークを通してレプソル・ホンダ・チームのマルク・マルケスがライバルを圧倒。ウイーク初日のフリー走行1回目では、2番手に1.617秒の差をつけてトップと手に負えないほどの速さを見せていた。さらに一歩踏み出した速さを手にしたマルケスをオクスリーが分析する。
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第14戦アラゴンGPはレプソル・ホンダ・チームのマルク・マルケスがロードレース世界選手権に参戦して200戦目のレースだった。だから26歳のマルケスには、レースから引退する前でも話題がたくさんあるのだ。
アラゴンGPの予選日、私は広く尊敬を集めているMotoGPの技術者にインタビューをしていた。彼はウエイン・レイニーやバレンティーノ・ロッシなどのライダーと仕事をしてきた人物だ。私は彼に、マルケスをこれほど特別にしているものは何かと尋ねた。
彼が答えた時、私は椅子から落ちそうになった。「重要なのは、マルクが他の誰よりも勝利を欲していることだろう」と彼は語った。
「マルクは勝利が必要だし、勝利を切望している。彼は深く集中している。他のライダーたちは甘やかされたガキのようだ……」
なるほど。私はこの技術者が誰かを明らかにするつもりはない。なぜなら彼が他の21人のMotoGPライダーに少々嫌われてしまうかもしれないからだ。
マルケスはライバルを押しつぶして記録を更新している。彼はこれまでで最も競争の激しい時代のグランプリレースを戦っているが、2019年は14戦中、優勝が8回、負けて2位となったのが5回(そのうち4回は1秒未満の差だった)という成績だ。マルケスはどのライダーも手がつけられない存在になっている。
私自身、1990年代にマイケル・ドゥーハンが席巻した時代以来、これほどにライバルを圧倒したトップライダーを知らない。そしてライダーの才能を理解するための真に正しい方法は、チームマネージャーや記者、ファンの目を通してではなく、他のライダーたちとともにコースを走り、彼らがバイクで何ができるのかを正確に見知っているライダーの目を通して見ることだ。
マルケスのライバルたちは、なぜ彼があれほど速いのか説明するのに戸惑っている。マルケスはフロントタイヤのスライドコントロールに長けており、それは誰も習得することのできない一番の才能だ。なぜマルケスはそれができるのかライバルたちに尋ねると、彼らは放心状態で困惑しているように見える。今までのところはだ。
金曜午前のアラゴンで、マルケスはフリー走行1回目を他のライダーたちに1.6秒差というあり得ないほどの差をつけて終え、その週末へのムードを高めた。決勝レースで3位につけたジャック・ミラー(プラマック・レーシング)は初日のセッションでこう語った。
「僕はセッションの終わりに戻ってきた。『良いセッションだったね!』とスタッフたちからハイタッチされた。そして僕はスクリーンを見た。そうしたら僕は(マルケスから)2秒も遅れを取っていたのが分かった。良いセッション? これが良いセッション? 冗談じゃない。辛い。辛かったよ」
マルケスはどのようにしてそのタイムを出したのだろう? ミラーは肩をすくめて、大きなため息をついた。「マルクはマルクだ」とミラーは付け加えた。「彼は違うタイプの野獣なんだ」