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MotoGP ニュース

投稿日: 2020.04.21 12:40

ヤマハOBキタさんの「知らなくてもいい話」:MotoGPの排気量変遷の謎(後編)

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MotoGP | ヤマハOBキタさんの「知らなくてもいい話」:MotoGPの排気量変遷の謎(後編)

 かようにY社は地味な努力を重ねることでレース活動休止は免れたもの、一部のメーカーが相次いで戦列を離脱。プレミアクラスに相応しいエントラントのボリュームが確保できないことを憂慮したプロモーターは2012年にCRT(Claiming Rule Team)という奇策を持ち出してきた。CRT機はコストを抑えるために基本的に市販スーパースポーツのエンジンをベースに製作することが前提であり、ここでもSBKのプロモーターとの争いを避けるためかシャシーに関しては新規開発が前提ということで差別化が図られていた。また過度な開発投資を抑止する手段として、一定金額を出せば競合チームのマシンが買い取れるルール(Claiming Rule)が適用された。

 同時に従来のMotoGPマシンの排気量も1000ccに変更されたのだが、気筒数は4気筒まで、ボアは81mm以下と、CRT機のパフォーマンスとの極端な差が生じないような仕掛けが織り込まれていた。しかし、安全性向上のために排気量低減した800cc時代の5年間で、高回転高出力かつ省燃費の技術を獲得した各社にとってその程度の足カセはたいした抑止材料にもならない。結果、1000cc化は案外抵抗なく受け入れられた。プラス200ccの効果は軽く50ps以上の上積みになるので990cc時代のそれとは比べものにならないのだが、もはやそれがレースの安全性や社会に与える影響などが再び議論されることはなかった。

 800ccの時代にエンジンマネジメントシステムの開発が飛躍的に進んだこともその一因といえるだろう。このころから6軸センサー(3軸ジャイロ+3軸加速度)を用いた車両状態推定(Vehicle State Estimation)により、精度の高いトラクションコントロールやウィリーコントロールなどのシステムが次々に投入され、MotoGPマシンは大げさにいえば、市販スーパースポーツ並みに乗りやすいレーシングマシンに変貌を遂げていたのである。

キタさん:北川成人(きたがわしげと)さん 1953年生まれ。1976年にヤマハ発動機に入社すると、その直後から車体設計のエンジニアとしてYZR500/750開発に携わる。以来、ヤマハのレース畑を歩く。途中1999年からは先進安全自動車開発の部門へ異動するも、2003年にはレース部門に復帰。2005年以降はレースを管掌する技術開発部のトップとして、役職定年を迎える2009年までMotoGPの最前線で指揮を執った。写真は2011年のMotoGPの現場でジャコモ・アゴスチーニと氏と会話する北川さん(当時はYMRの社長)。左は現在もYMRのマネージング・ダイレクターを務めるリン・ジャービス氏。
※YMR(Yamaha Motor Racing)はMotoGPのレース運営を行うイタリアの現地法人。

2011年のMotoGPの現場でジャコモ・アゴスチーニと氏と会話する北川さん(当時はYMRの社長)。左は現在もYMRのマネージング・ダイレクターを務めるリン・ジャービス氏。
2011年のMotoGPの現場でジャコモ・アゴスチーニと氏と会話する北川成人さん(当時はYMRの社長)。左は現在もYMRのマネージング・ダイレクターを務めるリン・ジャービス氏。


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