モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、国内外のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。
第5回目のお題は『動き出したモータースポーツ業界への期待と課題』です。
新型コロナウイルスの影響で延期や中止になっていた世界中のレースシリーズですが、5月から6月にかけて再開に向けた動きが出てきました。なぜこのタイミングなのでしょうか? もちろん、新型コロナ感染拡大に一定の目処が付いたこともありますが、それだけが理由ではありません。その背景には、チーム、スポンサー、自動車メーカーのさまざまな思惑が入り組んでいるようです。
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本来であればレーシングカーのエグゾーストサウンドやファンの歓声が響き渡っているはずのサーキットが静寂に包まれたまま、2020年の最初の5カ月が過ぎようとしています。
この間、世界中のレースシリーズは新型コロナウイルスの影響で延期や中止を余儀なくされてきましたが、一部シリーズは今年5月ないし6月の再開を目指して準備を進めています。
果たして、予定どおりレースシリーズは再開されるのでしょうか? 私なりの視点で今後について予想してみました。
原稿の執筆段階で主立ったシリーズの再開予定をまとめてみると、F1は7月5日(オーストリア)、スーパーGTは7月12日(岡山)、スーパーフォーミュラは6月21日(菅生)、NTTインディカー・シリーズは6月6日(テキサス)、NASCARは5月25日(シャーロット)となっており、2019/20シーズンを実施中のWEC世界耐久選手権も8月15日(スパ・フランコルシャン)の開催を目指しています(日程はいずれも決勝日)。
国や地域を越えて6月から7月の再開を予定するシリーズが多いのはなぜでしょうか?
これは感染症の収束を待った結果というよりも、年内もしくは年明け早々に2020年シーズンを終わらせることに重きを置いた判断と考えられます。その理由は、今年予定していたレース数を開催するには、それがギリギリのタイミングだからです。
ではなぜ、予定のレース数を消化する必要があるのでしょうか?
理由はいくつかありますが、各シリーズのオーガナイザーやチームが結んでいるスポンサー契約がレース数に従っている影響が大きいようです。
つまり、開催されるレース数が減ればそれだけスポンサー収入が減り、オーガナイザーやチームの経営を圧迫するからです。これはスポンサー収入の占める比率が高いレーシングチームでその傾向が顕著とされます。
ご存じのとおり、財政的に余裕があるレーシングチームは世界的に見ても決して多くなく、スポンサー収入が閉ざされれば経営が立ち行かなくなるチームが出てきてもおかしくありません。
しかも、レーシングチームはドライバーとともにレースにはなくてはならない存在。彼らに救いの手を差し伸べるためにも、オーガナイザーは何とかしてレースを再開させたいと考えているようです。