ルイス・ハミルトンは予選まで絶不調というほどの苦戦を強いられながらも、スタート直後の混乱でトップに立ってからは独走でシンガポールGPを制した。しかしその背景にはメルセデスAMGの盤石の戦略とチーム力があった。
スタート直後の多重事故でセーフティカーが導入されると、首位のハミルトンにレースエンジニアのピーター・ボニントンが冷静に語りかけた。
メルセデス(以下、MGP)「ルイス、このレースはクルマを1ピースで持ち帰ることが最も重要だ」
ハミルトン(以下、HAM)「あぁ、まさにそれを思い知らされたところだよ」
5周目にレースが再開されてからは2位ダニエル・リカルド以下の後続を引き離していったハミルトンだが、ダニール・クビアトのクラッシュでセーフティカーが導入されると他車が続々ピットインして新品のインターミディエイトに履き替えたのに対して、メルセデスAMGはステイアウト。タイヤ交換ができなかったハミルトンは不安を募らせたが、チーム側は温度管理も含めて自信を持っていた。
HAM「全員タイヤを交換したって、どういうこと?」
MGP「我々はトラックポジションを優先したんだ」
HAM「それが良い選択だったのか僕には分からないな」
MGP「大丈夫、RBR(レッドブル)は我々とは逆の戦略をやろうとしているだけだよ。RIC(ダニエル・リカルド)は今P2だ」
グレイニングを懸念するハミルトンに対して、メルセデスAMGは安心させるようにパワーユニットのモード変更でペースを上げさせた。
HAM「新品タイヤの連中の方がこのタイヤより速く走り始めるはずだ」
MGP「さっきのラップは0.9秒速かった。ギャップは1.2秒だ。ストラット5、回生パワーがアップするよ」
結果、タイヤに問題はなくハミルトンは再び後続を引き離していく。20周目ハミルトンは路面の乾きが遅いことをボニントンに報告する。
HAM「タイヤはまだOKだ。路面は乾くのがすごく遅い」
MGP「さっきのラップは0.55秒速かった」