第8戦イタリアGPと第9戦トスカーナGPでは、2戦連続で赤旗中断が提示される珍しい展開となった。近年のF1で赤旗が提示されるのは年に一度か二度あるか、ないかだろう。それゆえ、赤旗中断中の作業と赤旗後のレース再開方法については見ている側にも混乱が生じてしまう可能性がある。
そこで、今後のレースで赤旗が出された場合に、混乱することなく、レースが楽しめるよう、赤旗にまつわるふたつの手順について解説していきたい。
まず、最初は「いつから赤旗中断中にタイヤ交換が許されるようになったのか?」だ。
これはかなり以前からスポーティングレギュレーション第41条4項に「車両が一旦赤旗ライン後方に停止したならば、またはピットに入ったならば作業を行うことができるが、この場合の作業がレースの再開の妨げとなってはならない」と記されている。
ただし、ドライ路面でのレース中のタイヤ交換義務は2007年から開始され、赤旗によって、そのことが表面化したのは2011年のモナコGPが最初だった。このとき、各チームのチームマネージャーがFIAに「作業を行うことができる」項目のなかにタイヤが含まれていることを確認。
これより、消耗したタイヤに苦しんでいたトップを走行していたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)がタイヤ交換することができ、フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)、ジェンソン・バトン(マクラーレン)を抑えて、そのまま逃げ切りに成功した。
3位に終わったバトンが「赤旗が提示されたあと、すべてのチームが新しいタイヤに交換したため、僕のアドバンテージはなくなってしまった」と唇を噛んだが、2位のアロンソは「終盤にはベッテルを攻めていたのに、赤旗が提示されて、終わった。残念だけど、こういったことは起こり得ること」と受け入れていた。
一方で、レース終盤のドラマを期待していたファンからは疑問の声が挙がった。またF1へのタイヤ供給を始めたばかりのピレリのポール・ヘンベリー(当時モータースポーツ部門ディレクター)も「このレギュレーションは見直されるべき」と語っていたが、その後もレギュレーションが改訂されることはなかった。
その理由としては、安全性を第一に考えているからだろう。赤旗が出される状況では、コース上にデブリが散乱していることが考えられ、それを踏んだタイヤやデブリに当たって損傷したパーツは交換して当然という考えがあるのではないか。
第8戦のイタリアGPではデブリはほとんどコース上に出ていなかったが、第9戦トスカーナGPの一度目の赤旗では、リスタート時のマルチクラッシュにより、ホームストレート上に大量のデブリが散乱していた。タイヤを交換せずにレースを再開していたら、リスタート後のレースで最高速の出るストレートでバースト、大クラッシュを喫するマシンが出ていたかもしれない。
2017年のアゼルバイジャンGPでも今回のトスカーナGPと同じようにコース上に多くのデブリが散乱していて赤旗が提示されたことがある。このとき、タイヤ交換に対して不満を言うドライバーはいなかった。