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F1 ニュース

投稿日: 2021.02.15 07:00
更新日: 2021.02.15 15:31

グロージャンとの10年間を回顧。F1デビュー戦で示した才能と精神面の課題/小松礼雄コラム番外編

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F1 | グロージャンとの10年間を回顧。F1デビュー戦で示した才能と精神面の課題/小松礼雄コラム番外編

 その2013年は、第15戦日本GPのこともよく覚えています。このレースではいいスタートをしてトップに立ち、落ち着いてレースをリードしていました。ですが後ろを走っていたレッドブルがウエーバーをピットインさせたので、ウチは彼をカバーするためにロマンをすぐにピットインさせるしかありませんでした。

 その間に前の開いたセバスチャン・ベッテルは最速タイムを連発し、ピットイン後に逆転されてしまいました。その後ロマンも青旗時にミスをしたせいでウエーバーに抜かれて3位でレースを終えたので、ちょっと苦い思い出ですね。ウチより速いレッドブルにハサミ打ちにされたので優勝は無理でしたが、2位だったら手放しで喜べたと思います。でもあの秋の日差しのなかロマンがトップで1コーナーに飛び込んでいく姿は今でもはっきりと覚えています。

 普段のレースの時は特に意識しなくても普通に落ち着いて自分の仕事に集中できるのですが、この時ばかりは「落ち着かなくっちゃ」と自分に言い聞かせたのを覚えています(笑)。ちなみにこの日本GPのシャンパンボトルは、ロマンに日付とサインを書いてもらい、今は僕の家に飾ってあります。これがロマンのベストレースかと言われると必ずしもそうではないですが、僕にとっては記憶に残るレースです。

2013年F1第15戦日本GP 表彰式
2013年F1第15戦日本GP表彰式 セバスチャン・ベッテル(レッドブル)、マーク・ウエーバー(レッドブル)・ロマン・グロージャン(ロータス)

 翌2014年にはロマンがドライバーとしてのピークを迎えた頃と思っているのですが、僕のなかで一番残念だったのは、この年にパワーユニットのレギュレーション変更があり、ルノーのパワーユニットには競争力がなくてまったく戦えなかったことです。彼のピークの時に勝てるクルマに乗れなかったというのはすごくかわいそうでした。

 それでも彼のF1キャリアのなかには多くのチャンスがありました。残念ながら乗れている時、流れを持っている時にチャンスを活かしきれなかった。勝てるドライバーだったのに、勝つことができなかったのは残念です。それでも10年以上F1に乗ったんですから、それはやはり彼の才能あってのことです。

 そんなロマンの長所は、やはり天性の一発の速さです。デビュー戦やモナコでの速さがそれを表しているし、それに彼はどんなサーキット行ってもすぐに速いタイムを出せる。逆にケビン(マグヌッセン)はそういうタイプではないので、2020年第9戦トスカーナGP(ムジェロ)ではロマンに対してまったく敵わなかったのです。

 反対に短所はメンタル面ですね。冒頭で彼の第一印象が自信満々だと書きましたが、それはロマンが外部に見せる顔であって、本当のところは自信がないのです。僕がそれを確信したのは、レースエンジニアをしていた2012年に初開催のインドGPへ行った時でした。

 インドのサーキットは1コーナーのブレーキングがきついのですが、ロマンはそこで何度もタイヤをロックアップさせて、まともに1周走れなかったことがありました。データを見ると、ロマンはブレーキング時にキミよりもかなり突っ込んでいたので「ブレーキングポイントをキミと同じところまで戻せ」という話をしたのですが、ロマンはまったくそれができませんでした(キミのブレーキングポイントでもすでにほぼギリギリだったのです)。

ロマン・グロージャン(ロータス)
2012年F1第17戦インドGP ロマン・グロージャン(ロータス)

 あまりに酷かったのでFP1終了後にロマンのところへ話しに行くと、「自信がない」と落ち込んでいました。彼はどんなサーキットでも最初から速いけれど、それは彼が常に一番じゃないと認められないという環境で育ってきたからということも関係していると思います。だから徐々に限界に近づくということをせず、一発で速いタイムを出そうとするのです。

 また彼は世界中の人が自分の一挙手一投足を見ていて、FP1の1周目のタイムから評価を下されると思ってしまうのです。だからすぐにトップタイムを出したいし、サーキットによっては実際にそれができます。ただミスをした時に、自分が他人から見られていると思っているからこそ「自分のせいじゃない」ということを言わないと気が済まない。一種の自己防衛本能でしょうか。この点は徐々に改善されていきましたが、最後まで精神的な弱さを克服できなかった部分もあります。


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