3年前ですがFP1でF1に乗ったということがF1村のなかでも認知されていて、アルファタウリのスタッフのみんなも覚えていてくれていた。F1を担当しているHRCのメンバーとも会えて、スーパーフォーミュラやスーパーGTでチャンピオンになったことで、いろいろな方に知って頂くことができて、世界的に活躍されている方と話が出来る機会が得られるというのは、これまでドライバーとして残してきたものの大きさを感じるきっかけにもなりました。
金曜の時に見ていて思ったのは、僕が乗った2019年の時とはクルマが変わって、PU(パワーユニット)/エンジンはそこまでシステムは変わっていないですが、3年経って現行規定のクルマになって、クルマの形とか重量が大きく変わりましたよね。まず、今のF1マシンを見て予想以上に感じたのは、当然F1なので速いなとは感じましたし、ダウンフォースもすごく大きそうに見えたのですけど、一方で車重の重さが悪い意味で際立っていたように感じました。
S字の切り返しとか重そうに見えたのですけど、ストレートがやっぱり速いのと、グランドエフェクトでコーナーも上手にダウンフォースを獲りに入っている感じがしたのですが、重量のところだけが気になりましたね。
この日本GPで注目されている角田(裕毅)については、彼を語るほど、多くのエピソードがあるわけではないですけど、SRS-F(現HRSF)に入って来た当時(2016年)に講師をしていたときに会ったことを覚えています。その時、他にも同期はたくさんいたのですが(笹原右京、大湯都史樹ほか)、当時、誰が僕のところに一番聞きに来ていたかというと、覚えているのはやっぱり角田だったなあと。
でも面白いのが、角田は聞きに来るので『速くなりたい』という貪欲さはその同期のなかでも一番あったのですけど、それをまだ言葉で表現するのが上手ではなくて、聞きに来ても『どうでしたか?』とか、アバウトな聞き方で、的を得たような質問がありませんでした(苦笑)。
自分でなんとかしたいのだけれど、それをまだ言葉で表現できる時期ではなかった。何についてどう聞けばいいのかわかっていなくて、でも、とりあえず聞きにきた。面白い子だなあと思っていたことが記憶に残っています。でも、他の若いドライバーが自分のところに聞きに来た記憶がない中で、当時の角田のことだけを覚えているということは、今思うと相手に印象を残すという才能は長けていたのかもしれませんね。
彼が今、このF1村で特質的なキャラクターを持っていて、(フランツ)トストさん(アルファタウリ代表)とか、(ヘルムート)マルコさん(レッドブル・レースディレクター)とか、主要な人物たちに好かれるのも何かわかりますね。地頭がよくてスマートかと言われたら、お世辞にも当時はそうではなくて不器用で(苦笑)。裏を返せば、言葉にはできないけど唯一、行動に移すことはできていたドライバーだったなあということが印象に残っています。
当時は見た目もすっごい小さかったですけど、金曜日にアルファタウリのピット内で見せてもらっていたときに彼が気づいて、挨拶に来てくれました。そのときは『カラダ、大きくなったね』って筋肉のことを言ったつもりだったのですけど、『そうですか?! まあ、ちょっと大きくなりました』と、お腹をさすっていました(笑)。いやいや、そこじゃなくて、首とか肩まわりのことを言っているのに(苦笑)。相変わらず面白い子だなあと。レーサーとしても人としても、相手に印象を残すのもひとつの才能だと思いました。
●山本尚貴(やまもとなおき)1988年生まれ、栃木県出身
ホンダを代表するレーシングドライバーとして、スーパーフォーミュラで3度チャンピオンに輝き、スーパーGTでは2度のタイトルを獲得。前回の日本GP、2019年の鈴鹿では当時のトロロッソ(現アルファタウリ)から、ガスリー車両を借りる形でFP1をドライブしてF1マシンデビューを果たした。
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