■徹夜の作業もふたたびアクシデントに
ただ、迎えた11月28日(土)の予選レースでは、バン・デル・ザンデは思わぬアクシデントに巻き込まれた。スタート直後からポジションを上げ8番手につけていたものの、ポリス・ベンドでダニエル・ジュンカデラが駆るメルセデスAMG GT3がクラッシュしたのを引き金に、12台が玉突き衝突。これにバン・デル・ザンデも巻き込まれてしまったのだ。
ピットにNSX GT3が戻るまでの間、山本部長も嶋村マネージャーも非常に険しい表情を浮かべていたのが印象的だった。そして、追い打ちをかけるように直後に行われたWTCC世界ツーリングカー選手権のオープニングレースでも、隣のピットだったノルベルト・ミケリスとエステバン・グエリエリのシビックが同様にクラッシュに巻き込まれ、ホンダ陣営は3台の傷ついたマシンを直さなければならなくなったのだ。
3台の修復作業は徹夜となり、早朝6時半頃まで続いたという。「クルマを修復してくれたメカニックに助けられた。感謝しています」と山本部長。
迎えた決勝では、ややカラーリングはスッキリしてしまったものの、バン・デル・ザンデが強力な走りをみせ、6番手を争っていたものの、ジュンカデラとダリル・オーヤン(ポルシェ911 GT3 R)が目の前で接触したのに巻き込まれ、ラジエターを破損。リタイアとなってしまった。
当然ながら、FIA GT3カテゴリーのレースは性能調整が施されるため、バン・デル・ザンデが好走をみせれば、上位に行くのは可能なことだ。しかし初挑戦のマカオで、しかも各メーカーが世界屈指と言えるワークス格のドライバー&チームを送り込んでいたこのGTワールドカップで、バン・デル・ザンデとホンダNSX GT3がみせたパフォーマンスは、筆者も思わず応援してしまう活躍だった。
■「その速さを皆さんに見ていただけたと思う」
「ヨーロッパのメーカーさんも『おっ』と思ったのではないでしょうか」と嶋村マネージャーはレース後、デビュー戦を振り返った。
「クルマはたくさん壊しましたが(苦笑)、得るものが多い週末でした。決勝でも期待してはいけないのですが、うまくいけば5番手以内にいけたと思います。クラッシュは残念ではありますが、いろいろなことを学ぶ週末でしたし、マカオを走らせることで、今後カスタマーに対しても何が必要かなど、また新しい経験を得ることができました」
また、山本モータースポーツ部長も「レースも見ていただいたと思いますが、メルセデスやアウディに対して、思いきりビハインドがあるとは思わなかったです」と自信を深めた。
「ホンダの人間が言うと手前味噌になってしまうかもしれませんが、アジアのデビュー戦としては、結果こそリタイアとなりましたが、途中まではその速さをみなさんに見て頂けたと思っています」
「こうしてホンダのトップブランドであるNSXがレースで戦うことはすごく喜ばしいですし、ファンの皆さんに向けても、またいろいろなレースのプログラムを組んでいきますので、ぜひ応援よろしくお願いします」
GT3カーの世界で大切なことは、勝利などの結果を残すことはもちろん、いかにカスタマーチームの心をつかみGT3カーを買ってもらい、レースで活躍してもらうかだ。その点では、地を這うように走るNSX GT3の姿は、エキゾチックなヨーロッパのGT3カーとはひと味異なる、日本の誇るスーパースポーツならではのカッコ良さがあった。GT3チームへの印象を残すという点では、今回のGTワールドカップへの実戦投入は“成功”と言えるのではないだろうか。