私が楽しみにしていたマシンのうち、2台はアメリカブランドのものだった。フォードGTとシボレー・コルベットだ。
あの当時、フォードGTをベースとしたレーシングカーは日本とヨーロッパでしかレースをしていなかったはずだ。日本では2007年のスーパーGT GT300クラスにDHG Racingが投入し、ヨーロッパではFIA GT3ヨーロッパ選手権にマテック・コンセプツが投入していた。しかし、セブリングに現れたフォードGTは、これらのマシンとはまったく違うものだった。
ケビン・ドランによって作られたフォードGT-R Mk VIIは、スーパーGTに参戦したマシンと比べるとよりプロダクションベースな個体で、搭載する5リッターV8エンジンは美しいサウンドを奏でていた。マシンのフォルムも美しく、私はまるで恋に落ちたような気分を味わった。
目を凝らして見れば、マシンの細部は整っていなかったし、仕上げも完璧とは言えなかったが、論理的に説明することのできない大きな魅力を放っていた。
このマシンは、とても人当たりのいいアメリカ人夫婦が運営するチームの所有物だった。夫婦はレースを楽しむためにセブリング12時間へ参戦しており、マシンのことも気に入っている様子だった。
フォードはこの車両開発に関与しておらず、プロジェクト自体もサポートしていなかった。そのためマシンには人の手による“ホームメイド感”があったし、夫妻が運営するチームの存在も、マシンを魅力あるものにしていた。
もう1台の新GT2マシンであったライリー・テクノロジーズのコルベットも、マニュファクチャラーからのサポートは受けていなかった。実はゼネラルモーターズは、このコルベットによるレース参戦をやめさせたかったようなのだが、“反抗的”なプライベーターチームは、とにかくプロジェクトを進めていったのだ。
チームのシボレー・コルベットC6はドラン夫妻が手掛けたフォードGTよりも、はるかに優れたデザインで、より高い競争力も持っていたが、フォードGTが放っていた“特別ななにか”が欠けていた。コルベットにはレンタカーも存在するが、フォードGTにはないといった違いも影響しているのかもしれない。
そして私が関心を寄せていた最後の1台は、レースにエントリーしていた4台目のディーゼルエンジン搭載LMP1マシンだ。このマシンでエントリーしたのは資金豊富な大手マニュファクチャラーではなく、イギリスの小さなレーシングチームだった。
彼らは古いラディカルSR9のLMP2シャシーを手に入れ、バイオ燃料で動くように改良されたフォルクスワーゲンのV10ディーゼルエンジンを搭載したLMP1マシンを作り上げたのだ。
マシン全体のコンセプトは環境へ与える影響を最小限にすること。そのためボディワークパネルに麻の繊維が使われたり、ペイントも水性塗料を使って行われていた。このプロジェクトは非常に低予算で進められていたため、チームはプラクティスの週にマシンをコースへ持ち込むことはできなかった。
そればかりか、彼らは必要な書類を正しく用意できなかったため、結局レースから撤退せざるを得なくなってしまった。
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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。