私はフェラーリに招待されてル・マン24時間の現場にも出向いていたが、そこでフェラーリ関係者の予想を訊ねてみると、おおむね「優勝するに越したことはないけれど、初年度なので、表彰台に上れれば充分に満足」という回答が返ってきた。
彼らの言葉からも、そしてガリレラのコメントからも、フェラーリが必ずしも今年のル・マン24時間での優勝を確信していたわけではないことは明らかである。
にもかかわらず、直前でBoP(性能調整)が見直された影響で“フェラーリ陰謀説”のようなウワサがまことしやかに囁かれていることは、私の目にはとても不自然に映る。
なるほど、ACO(フランス西部自動車クラブ)がBoPを直前に変更したのはルールに則ったことではなかったかもしれない。けれども、だからといってACOが「フェラーリを勝たせようとした」と捉えるのは、穿ったモノの見方のように思う。
たしかに、ACOが『決勝レースでの接戦』を望んだことは事実だろう。けれども、ACOは100周年の記念すべきレースが接戦になって世界中を湧かせればそれで満足で、結果として誰が勝つかについては興味がなかったのではないか。そうでなければ、今年のように日曜日の午後まで接戦が続くような展開などにせず、フェラーリに対してもっと明らかに有利なBoPを設定していたことだろう。
私がとあるメディアに「ル・マンには神様と悪魔が棲んでいて、その年、もっとも神様に愛されたチームが優勝する」という主旨の記事を寄稿したところ、ル・マンに詳しい知人から「まさにそのとおり。ACOは神様に仕える(神社でいうところの)社務所で、決してACO自身が神様ではない」との主旨の話を聞かせて私を笑わせてくれたものである。
ところで、499Pに積まれていたV6エンジンはフェラーリ296GTBに搭載されているものがベース。その296GTBのGT3レーサーが今年のニュルブルクリンク24時間でドイツの強豪を蹴散らし、総合優勝を飾ったことは皆さんもご存じのとおりである。
つまり、あのV6エンジンこそが、今年は24時間レースの神様から祝福されているという解釈も成り立つのである。