2024年のスーパーGT、GT500クラスのニッサン陣営で今年、大きな注目を集めたのが、ニッサンのエースドライバーのひとりである松田次生のチーム移籍だ。2014年から昨年まで23号車ニスモから参戦していた松田次生は今年、24号車KONDO RACINGに籍を移し、ヨコハマタイヤ陣営に加入することになった。ヨコハマ陣営にとって、経験豊富で実績もある松田次生の加入は、今年の大きな武器になる。間もなく迎える開幕戦に向けて、移籍の心境、そして実際に装着したヨコハマタイヤの手応えを聞いた。
⚫︎リアライズコーポレーションADVAN Zとして参戦する2024年の松田次生の心境
まずは大きな話題となったチーム移籍、松田次生はどんな心境でKONDO RACINGに加入するのだろう。
「気持ちとしては10年、ニスモでやってきて、チームとしてもおそらくやり切った部分もあったと思いますし、24号車でヨコハマタイヤの開発チーム、そしてチームメイトの若手の名取鉄平選手の育成をやってくれないかという話を頂いて、僕自身も新たなチャレンジだなと思いました。チームだけでなくタイヤメーカーも10年ぶりに変わりますし、スーパーGTではヨコハマタイヤさんを初めて履くことになりますからね」
松田次生はスーパーGTではヨコハマタイヤの経験はないものの、2019年には一度、ヨコハマタイヤを経験している。
「ニュルブルクリンク24時間レース(2019年にKONDO RACINGからGT-R GT3で参戦)でヨコハマタイヤを履いたことがありまして、コンディションに合った時のパフォーマンスがすごくよかったのを覚えています。事前には少しクセがあるようなことを聞いていたのですけど、それほどでもなかったですし、乗っていた時のフィーリングもよくて、VLNの予選ではクラス2番手のタイムを出すことができました。ニュルでは一時的に雨が降ってきて、その時は厳しかった経験もありますが、ドライに関してはライバルメーカーともいい戦いができていましたね」
これまでライバルとしてGT500でのヨコハマタイヤをどのように見ていて、そして今年、実際に乗っての感触はどのようなものだったのだろう。
「去年まで見ていても、ヨコハマタイヤは進化の度合いが大きくて、いい形に開発が進んでいる感じが見えました。1月のマレーシア、セパンサーキットでのテストで初めてGT500のヨコハマタイヤを履いて走りましたが、やはり自分のドライビングスタイルが昨年まで10年履いていたミシュランタイヤに慣れてしまっているので、タイヤの特性がメーカーによって全然違うので、まずはドライビングをタイヤに合わせて、どう走らせたら一番速いのかというのを、探り探りやっていた感じがありました」
探り探りの走りの中でも、経験豊富な松田次生はすぐにヨコハマタイヤのいい部分、そして課題となる部分を感じ取っていた。
「強みはやはり、ゴムが強いということですよね。暑いコンディションでのタレ(性能劣化)感というのは意外と少ないなという感触があります。ただその分、タイヤのウォームアップの時間が少し長く掛かってしまう印象がありますね」
「レースではその部分、スタート直後やアウトラップなどでライバルに遅れてしまう可能性がある。そこは変えていかないといけない部分だと思っています。ただ、そこを変えていくことでゴムの強さ、スタビリティを失う可能性もあるので、ゴムだけでなく構造を含めて、どこに落とし込めるのかはいろいろやっていかないといけないと思っています」
その開発については、松田次生はこれまでニッサン陣営でブリヂストン、ミシュラン、そしてヨコハマタイヤをGT500で経験しており、ニッサンに移籍する前のホンダ時代にはダンロップタイヤも装着していた。
「ダンロップ(2005年EPSON NSX)も履いているので、GT500でタイヤメーカー、4メーカーを制覇してしまいました(苦笑)。やはり、タイヤメーカーさんはそれぞれ個性がと言いますか、考え方を持ってレーシングタイヤを作っているイメージがありますので、乗り替わる時にはこれまでも乗り方をアジャストが必要です。同じ黒いタイヤなのですけど、荷重が掛かった時のタイヤの潰れ方や、グリップの出方は違いますよね」
「新しいタイヤメーカーのタイヤに合わせて乗るというのは、そんなに簡単なことではない。僕に関してはミシュランで10年という期間が長すぎた感じもありますが、その10年の蓄積は結構、大きいです。なかなか頭を切り替えるというのは大変ですけど、このオフのテストで走って、最近やっとヨコハマタイヤさんの乗り方に合ってきたという感じがあるので、次はどういうタイヤを開発してくのがいいのかなというところには来ている感じがします」と、松田次生は話す。
今年のスーパーGTでは、タイヤの持ち込みセット数が削減されて、さらに予選Q1、Q2、そしてスタートを同じタイヤで走行しなければならない規定となった。昨年は実質、予選で2度のポールポジションを獲得する速さを見せたGT500のヨコハマタイヤだが、今年は決勝を含めての走行距離が伸びることで参戦台数が少なくデータが少ないヨコハマ陣営にとっては、今年の規定はネガティブな要素となる。
「そこは今年、厳しくなる部分ですよね。オフの岡山の模擬予選でもそうでしたけど、予選Q2でもブリヂストンの一発のタイムが全然落ちていなかった。予選Q1、Q2を走ったタイヤでレースをスタートするので、マイル(走行距離)が厳しくなりますので、どれだけタイヤを持たせなければいけないのかというは、結構大変だと思いますね」と、今季の展望を話す。
⚫︎実績豊富なベテランとしてのKONDO RACING、ヨコハマタイヤでの役割
松田次生としては今年、チームメイトにGT500ルーキーの名取鉄平の教育係としての役割も課せられている。
「彼、23歳ですから、僕はもうお父さんみたいなものですよね(苦笑)。始めは何を話せばいいのだろうと考えていたのですけど、意外と気さくな性格ですし、やっぱりドライバーとして速いですからね。若くて速くて、順応性も高いので、これから1戦1戦、レースを積み重ねていくごとに強くなっていくというイメージがあるドライバーですね」
その名取とともに挑む今シーズン、改めてGT500での目標、そしてヨコハマタイヤとの新しいコラボについて聞いた。
「いきなりチャンピオン争いというのは難しいとは思いますけど、まだまだこれから発展していくヨコハマタイヤの開発プロセスで一緒にいいタイヤを作っていきたいですし、まずはどんなサーキットでもコンディションを選ばすに常に上位で戦えるようなところに持っていけるようにしたいなと思っています。タイヤ開発自体は、割り切ってできれば楽しめるのですけど、やっぱりレースで負けると悔しいので、とにかくヨコハマのみなさんと一緒に、どれだけ早くいいタイヤを作っていけるのかというのを課題というか、使命でもあるのかなと思っています。僕自身は(通算)25勝目を達成したいですし、KONDO RACINGのチームとしても8年勝っていないので、まずは1勝、近藤(真彦)監督とチームにプレゼントできればなというのが目標ですね」
さらにプライベートでもヨコハマタイヤのADVANブランドを愛用している松田次生は、他カテゴリーへの興味をさりげなくアピールすることを忘れなかった。
「あと、ヨコハマタイヤさんはFDJ(FORMULA DRIFT JAPAN)にもタイヤを供給していますので、僕はいつでも準備しています(苦笑)。FDJ2はADVAN NEOVA AD09のワンメイクですので、AD09でのドリフトにも興味はもちろんあります。これまでは自腹でドリフトしていてクルマはありますので、あとはタイヤさえあれば(苦笑)」
実績も経験も豊富な松田次生とヨコハマタイヤの新しいチャレンジ。GT500だけでなく、スーパーGTの枠には収まらない、大きな話題ともなりそうな気配だ。
⚫︎Profile:松田次生(まつだつぎお)
1979年生まれ、三重県出身。幼少の頃よりカートで実績を重ね、1997年に現在のホンダ・レーシングスクール鈴鹿の前身、鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラクラス(SRS-F)に佐藤琢磨と同期で入校。スカラシップを受けて卒業し、その後、全日本F3、フォーミュラ・ニッポン、2000年から全日本GT選手権に参戦。フォーミュラ・ニッポンでは2007年、2008年にチャンピオンに輝き、スーパーGTでも2014年、2015年にタイトルを獲得。GT500クラスでは歴代トップの通算24勝を挙げている。今季、10年間所属したニスモからKONDO RACINGに移籍。スーパーフォーミュラではKids com Team KCMGのアンバサダーを務める。