伊与木氏はもてぎ戦のターニングポイントとして「持ち込みセット」を挙げる。10月のもてぎテスト、そして直前のオートポリス戦でのマシンの状態はいまいちで、今回も走り出しは少なからぬ不安があったという。
しかも公式練習はウエット路面から乾いていく状況となり、持ち込んだ2種類のドライタイヤを評価することで精一杯。だが幸いにもマシンのバランスは良好で、土曜日はほとんどセットアップに触ることなく、フロントロウを確保できた。言うまでもなく、予選順位が重要なもてぎで、ライバルに“先手”を打てたことは大きい。
持ち込みセットに関しては、「研究所と協力し、8号車(ARTA NSX-GT)ともデータなどを共有しながら」(伊与木氏)、熟考を重ねて仕上げてきたという。そのセットアップの精度の高さが奏功した形ではあるが、同時にそれはARTA野尻智紀の驚速PPラップを生み出すことになってもしまい、予選後の山本は悔しさを露わにしていた。そこにはキーパーより前のグリッドを確保できたという安堵感はほとんど感じられないほどだった。
今季のホンダ陣営には、このように共闘体制を採りながらもガチガチにぶつかり合う気持ちが良い結果を生み出していた側面も感じられた。それはレイブリック“内部”とて同じことで、「ドライバーなので、『自分の方が速い』と思っていないといけない部分はあるし、JBもそう思っているはず。でも我を出しすぎるとうまくいかないということも、お互い分かっている」と山本は決勝前に語っていた。
もちろんそれはGTの世界では昔から語り尽くされてきた表現ではある。だが、“F1世界チャンピオンをルーキーとして迎え入れる”という特殊な状況のなかでも、その姿勢をふたりのドライバーが貫き、初年度にして結果を出したことは賞賛されるべきだろう。当初その組み合わせを疑問視していた人々にも、一泡吹かせる結末となった。
速い者は強く、強い者は速い。それを見せつけたレイブリックのタイトル獲得劇だった。
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