5月25~26日に行われた2019年のスーパーGT第3戦鈴鹿。GT500クラスでは後半スティントを担当した関口雄飛の“技”と東條力エンジニアの“隠し味”がau TOM’S LC500に勝利をもたらした。
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「後ろ来てるよ。頼んだぞ」
「大丈夫、おさえます。任せてください!」
トップを走る36号車au TOM’S LC500のすぐ背後に、6号車WAKO’S 4CR LC500(大嶋和也)と僚友の37号車KeePer TOM’S LC500(ニック・キャシディ)、2台のLC500がコンマ差まで詰め寄ってきたときだった。ピットの東條力エンジニアがたまらず無線で呼びかけると、関口雄飛からは心強い返答があったという。
ところが、そのやり取りから間もなく「無理かも。おさえられないかも」という関口らしからぬ弱気な無線が飛び込んできた。後半スティントの序盤は、後ろの2台に比べて、見るからに36号車のペースが劣勢だった。さらに、この日の関口はGT300車両と遭遇するタイミングでことごとくツキがなく、加速したい瞬間に行く手を阻まれるケースが何度もあった。
■関口が仕掛けた罠と東條エンジニアの隠し味
そんな関口は東條エンジニアに弱音を吐きつつ、対抗策を模索していた。「いまは向こう(WAKO’SとKeePer)のほうがペースはいいから簡単には逃げ切れない。だったら、前を走りながら後ろのクルマにダメージを与えてやろう。昨年のタイで自分が(小林可夢偉に)やられたように」
強大なダウンフォースを利用して走るGT500は「先行車の1秒圏内で走ると、後ろの車両はバランスを崩し本来のペースで走れなくなる。その状態で無理に前を追い続けると今度はタイヤを酷使し、ついていく余力も失う」。昨年のタイで可夢偉の術中に陥った関口は「自分がやられて嫌なことを相手にやる」というレースの鉄則を見ごとに遂行した。
こうした関口の戦い方を可能にしたのは、36号車が常にトップを走り続けられていたためで、つまり、予選でPPを獲得したことに意味があった。
この週末は、土曜日最初のセッションとなる公式練習から、多くのチームが「コーナー真ん中あたりからのアンダーステア」に悩まされており、それは36号車も例外ではなかった。
「コーナーミッドのアンダーは、ウチだけじゃないはず。でも、この時期の鈴鹿でアンダーを消そうとすると後ろ(リヤスタビリティ)がなくなる。ドライバーが満足のいくレベルには絶対に消し切れないから“我慢できるレベルのアンダー”にとどめておくのがベスト。それ以上、アンダーを消そうとすると“やり過ぎなレベル”です」
そう語る東條エンジニアとの協議の末、関口はQ2に向けて、この週末でもっともオーバーステアな方向へとセッティングを振った。「ぶっつけ本番のセットで、いきなり予選、しかもQ2を走るのは結構勇気がいることですけど、雄飛はその決断をしましたね」(中嶋一貴)
「Q2に向けての具体的な提案は僕からしました。ただ、東條さんは僕の知らない部分もいろいろ触りますから、今回もそれが効いていたのかもしれない」と関口は苦笑いしながら語った。その読みは的中していた。東條エンジニアは「Q2に向けてフロントの車高を下げて、リヤのバネを硬くしたことは雄飛も知っているけど、それ以外に2個所を変えた」ことを白状した。
関口の決断と東條エンジニアの隠し味によって、PPと決勝中のクリーンエアを手に入れた36号車。本命と思われていたNSXを封じての鈴鹿での完勝は中盤戦以降に大きな意味を持つ。