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MotoGP ニュース

投稿日: 2017.04.28 18:09
更新日: 2018.06.26 16:12

現役最年長ロッシの活躍は電子制御のおかげ?/ノブ青木の知って得するMotoGP

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MotoGP | 現役最年長ロッシの活躍は電子制御のおかげ?/ノブ青木の知って得するMotoGP

 スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第2回は、電子制御とライダーの関係について語る。

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 開幕戦カタールGP、第2戦アルゼンチンGP、そしてつい先日の第3戦アメリカGPでただひとり3戦連続で表彰台に立ち、一躍ポイントリーダーとなったのは誰でしょう?

 そう、皆さんご存じ、バレンティーノ・ロッシだ。それではロッシは何歳でしょうか? 正解は……、38歳! 現役最年長もいいところ、今年のMotoGPライダーの平均年齢は27歳でほぼひと回り離れており、最年少21歳のアレックス・リンスより17歳も年上なのだ!(2017年4月末現在)

 まだ3戦しか終わっていないとはいえ、38歳でランキングトップとは……。信じられない快挙なのだが、その影で「今のMotoGPマシンは乗りやすいからじゃないの……?」という声も聞こえてくる。

 いやいやとんでもない! 最新MotoGPマシンは決してラクに走らせられるシロモノではないのだ。開発ライダーとしてスズキGSX-RRを走らせている45歳のワタシが断言しよう。最新MotoGPマシンを早く走らせるのは、めちゃくちゃキツい!

■MotoGPライダーはトラクションコントロールに頼っていない?

 最新MotoGPマシンは“電子制御のカタマリ”とも言われている。トラクションコントロール(以下、トラコン)、エンジンブレーキコントロールなどが装備され、まさにコントロール三昧だ。だからこそ「やっぱりライダーはラクなんじゃないの?」と思われがちなのだろう。だがしかし、決してそんなことはない。むしろ、以前に比べてライダーの体への負担は増しているのだ。

 電子制御は、GPマシンが2ストロークエンジンから4ストロークエンジンにスイッチした2002年ごろから急速に進化した。当初は4ストの強大なエンジンブレーキをどう制御するかが大きな焦点だったが、同時に『ハイサイド防止装置』としてのトラコンにも力が注がれた。

 四輪ファンの方には『ハイサイド』という言葉は馴染みがないかもしれない。『ハイサイド』は、旋回中などでタイヤが横方向へ滑った後に急激にグリップが回復して車体が起き上がる挙動のことで、ハイサイド転倒はこれに起因するものをいう。

 トラコンは、アクセルを開けた時にパワーカットすることで、後輪の不要なスライドを防ぐ仕組みだ。それまでの2スト500ccエンジンに比べて飛躍的にパワーアップした4スト990ccエンジンは、エンジン特性も猛々しく、常にハイサイドのリスクと隣り合わせだった。

 ただ、当初の制御はとても粗かった。ワタシの初トラコン経験は2004年のプロトンKR5(ケニー・ロバーツ率いるチームのオリジナルマシン。独自開発のV5エンジンを、独自フレームに搭載していた)だったが、前後輪の回転速度差を検知するとカチッと作動し、バスンとショックが伝わり、スライドが収まるとカチッと作動休止、再びバスンとショックが伝わるというシロモノ。市販車のスピードリミッターが効く時のような衝撃があるので、限界まで攻めている時はとても怖かった。

 その後の2、3年でトラコンは急速に進化し、今ではハイサイド防止装置としてのものから、速く走るための武器として様変わりしている。今のMotoGPライディングでは、コーナリングのかなり早い段階からほどよく後輪をスライドさせて向きを変えているのだが、そのサポート役だ。

近年のMotoGPではブラックマークが濃く残るようになった
近年のMotoGPではブラックマークが濃く残るようになった

 原理そのものは昔から同じ。過度なスライドを検知したところでパワーカットしているのだが、制御はいっそう緻密になっている。前後輪の回転速度差だけではなく、6軸センサーから車体姿勢も把握。パワーカットの方法も工夫され、作動ショックもほとんど感じられない。より速く走るために最適なシステムに仕上がっている。

 ところで、さっきから「スライド、スライド」と言っているが、コレ、あくまでもコーナリングのかなり早い段階で、まだマシンが深々と寝ている状態での話。立ち上がりのパワースライドとは違う。ココ、非常に重要です。

 バンク角がおそろしく深い状態では、当然無理なことはできない。だからスライドと言っても、その量はかなり微妙だ。フツーの方なら、「え? スライドしてるの?」と気付かないかもしれない。そもそも、目で見て明らかに分かるような派手な挙動は、超シビアな現代MotoGPではタイムロスでしかないのだ。

 しかもですね……。今や多くのライダーは、トラコンをほとんど効かせていない。理由はふたつある。ひとつは、いち早く向き変えするために、ライダーが自分の意のままに後輪をスライドさせたいから。もうひとつは、いかに緻密になったとはいえ、トラコンはパワーカットが原則。つまり、少なからずパワーロスしてしまう。アクセルワーク次第でその無駄を防げるなら、自分で頑張った方がマシ、というワケだ。トラコンは、アクセルワークがほんのわずかイキすぎた時の“補正”という役割を果たしているのだ。

 つまりMotoGPライダーは、ものすごく深いバンク角の時点で、分かるか分からないか程度のスライドを、トラコンが作動するかしないかというギリギリの領域で、微妙な右手のアクセルワークによって、絶妙にコントロールしている。これがまた、体力的にヒジョーにキツイ。そしていよいよ話は、本題であるロッシ(38歳)のスゴさに立ち戻るワケである。

■電子制御の導入でライダーの負担増


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