更新日: 2024.12.06 19:04
【RACERS重版出来記念】異なるアプローチで頂点を極めた2台のロスマンズ・ホンダNSR500。19年間の進化の足跡を辿る
フレディ・スペンサー専用車として1984年に実戦投入されてから、MotoGPとの混走となった2002年シーズンまでの19年間、ホンダの旗艦として、世界選手権ロードレースを中心に走り続けたのがNSR500である。
この19年間に、エンジンの基本レイアウトが2回、爆発間隔が2回変更されており、それらの組み合わせを年代順に並べると、1984年、1985~1986年、1987~1989年、1990~1991年、1992年以降の5つのグループに分けることができる。車体のほうは、エンジンほど容易ではないが、1984年、1985~1988年、1989~1990年、1991年以降の4時期に大別できそうだ。
ともすればライダータイトルにばかり着目し、それを獲得できた年のマシンを成功作、獲得できなかったマシンは失敗作とするのは、あまりにも乱暴な見方である。マシンの性能というものは、成績を左右するいくつもある要素のうちのひとつにすぎないからだ。
とはいえ、タイトルを逃した翌年には、前作の問題点を解消するための改良と、ライバルを凌駕するための性能アップが盛り込まれているのは当然で、苦杯をバネにした開発努力が1980年代後半の急速な進化の原動力となったことは間違いない。
で、この号では、19年間のNSR500の歴史を、大ざっぱに、スペンサーによる黎明期、ワイン・ガードナーによる変革期、マイケル・ドゥーハンによる安定期の3つに分け、変革期(特にその前半)に行われた車両開発の内容と、それが1990年代のNSR500にどのような影響を与えたかを振り返る。
※中略
NV0Dで、以後のNSR500のエンジンの基本型が形作られたのに対して、車体の方は1985年のNV0Bをベースに、エンジン形式の違いに合わせた手直し程度の変化にすぎず、コンセプトを含めた大幅な見直しを行い、それを形にしたのは1989年のNV0Hだった。
NV0DとNV0Hの最も大きな違いである車格の差。つまり、遠くから見ても一目瞭然なボリュームの違いは、突き詰めると、NV0Hで一気に引き上げられたステアリングヘッドの高さによるものだとわかる。
※中略
このように、NV0Dでエンジンが、NV0Hでフレームが一新され、大幅にポテンシャルを高めたNSR500ではあったが、ポテンシャルだけが高まっても、レーシングマシンとしての戦闘力に直結する完成度が高まるわけではない。
この段階で残されていたのは、エンジンの出力特性の調教、新しい車体づくりの方向性に合ったサスペンションの改良、エンジンと車体まわりを総合したコントロール性の向上などの課題だった。
これらをひとつひとつテストし、解決策を見つけ、対策を施して再びテストで評価をする。それら一連の煮詰めが終われば、ポテンシャルの高さを戦闘力に結びつけることができる。だが、シーズン開幕を迎えた段階では、まだ、NV0Hの完成度はそこまで高まってはいなかった。
見た目に大きな変化をし、それまでのモデルよりもぐっと近代的なルックスになり、いかにも性能の高そうな印象を与えるNV0Hは、実のところ、飛躍的なポテンシャルアップは果たしていたものの、これからの苦難の道のりを経てようやく完成の域に達する、粗削りで未完成なマシンだったということができる。
最初に、タイトルを獲れたからといって成功作とは限らないと書いたのは、完成度という点では、NV0Hよりも、それによる1シーズンの試行錯誤の後に造られた’90NV0Hの方がはるかに高いからである。
※中略
ローソンに合わせた仕様変更とNV0Hが本来受けるべきだった改良点を切り分けるのは難しいが、エンジン関係では90度ごとの等間隔爆発から180度ごとの2気筒同爆への変化、車体関係では倒立フロントフォークの採用(ローソン車とガードナー車は開幕戦から装着)などは、ローソンの存在に関係なく行われたはずである。
たまたま、NSR500にとって、新しい開発の方向性が決まり、初めてそれを形にしたNV0Hが登場したシーズンにローソンが加わったのは、歴史の妙という他にない。
詳しくは(Vol.4の)56ページ以降を参照していただくとして、1989年シーズンのローソンには、どうにか自分好みのマシンに近づけさせ、それを駆ってタイトルを獲得した、ふてぶてしくも頼りになる助っ人であると同時に、開発途上のマシンやパーツに対して誰よりも正確で信頼できる評価ができる有能なテストライダーだったという点を見逃すわけにはいかない。
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上記マシン開発総論に加え個別の要素技術を詳解した各論で織り成す『レーサーズ』Vol.04『Rothmans NSR[Part 1]』がこのほど重版出来。その記念として、また2010年の初版発行価格から定価変更のおわびもあって、当該号の表紙イラストをあしらったポストカードを付録しています。購入希望の方は、三栄オンラインストア(https://shop.san-ei-corp.co.jp/shop/g/g000931/)まで。