更新日: 2024.12.09 11:59
【RACERS重版出来記念】ヤマハYZR500技術大全/要素技術から見る、1980年代中盤のヤマハ500ccレーサーの全容
1982年の0W61以来、YZR500のエンジンには2軸クランクのV型4気筒が2002年の最終型0WL9まで使われ続けた。2本のクランクは、当初はともに正回転だったが、1985年の0W81から相互逆回転に。爆発間隔は1992年の0WE0の前期モデルまでがクランク回転角180度での2気筒同爆で、ファイアリングオーダーは一貫して、1番(下左)と4番(上右)、2番(下右)と3番(上左)がそれぞれ同時点火となる、いわゆるスクリーマーだった。
ボア×ストロークにいたっては1977年の0W35から1995年の0WF9までの19年にわたって、56.0mm×50.7mmという寸法を一貫して採用。高回転でパワーを稼ぐのにショートストロークのほうが有利、という定性的理由と、様々な試行錯誤の結果、最も性能が出たという実情的理由による選択だった。
コンロッド長はストロークの2倍程度を基準としつつ、あとはレイアウト次第。ヤマハの2ストロークレーサーの場合、50.0~50.7mmストロークではコンロッド長は105mmが基本だが、0W81にはシリンダーにアルミ板のゲタを履かせてストロークを延ばし、110mmコンロッドを使って一次圧縮を低めた仕様も存在した。この110mmというコンロッド長は1996年の0WJ1から採用された54.0mmストロークで常用された。
1980年代中盤のYZR500エンジンにおける変化として大きいのは吸気方式で、0W70までのロータリーディスクバルブに替え、1984年の0W76からクランクケースリードバルブに。これにより、ディスクバルブを駆動させるために2本のクランクの間に設けられていた軸が不要になり、双方のクランクをギアで直結することが可能に。つまり、リードバルブ化により軽量化・システムの簡素化と機械損失の低減が果たされた。
さらに1985年の0W81からは2本のクランクを相互逆回転としたことで、吸気方向の適正化およびジャイロモーメントの相殺というメリットも得ることができた。
当時のリードの材質は、ヤマハではモトクロッサーで実績のあったGFRP製を採用していた。CFRP製リードもテストされていたが、パフォーマンスは良好だったものの耐久性に難があり、この当時は採用されなかった。ヤマハの場合、リードをCFRP製に切り替えたのは1990年代に入ってからのようだ。
0W76までは40度だったVアングルは、1985年の0W81から60度に拡大。0W76では、そもそもはロータリーディスクバルブを前提とした40度Vになかば無理やりリードバルブを押し込んでいたものを、0W81ではリードバルブ用に適正なスペースを確保し、キャブレターからシリンダーへの吸気通路をより短くすることが図られた。なお、Vアングルは後に1988年の0W98で70度へとさらに広げられている。
エンジンオイルはずっとカストロールA747、ミッションオイルは同じくカストロールR30。1980年代終盤まで燃料にはAVガスを使用した。
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上記『エンジン技術の基本仕様』をはじめ、1986~1988年の3年連続コンストラクターズタイトルを獲得したヤマハYZR500の正常進化の軌跡を辿った『レーサーズ』Vol.07『Marlboro YZR[Part 1]』がこのほど重版出来。その記念として、また2010年の初版発行価格から定価変更のおわびもあって、当該号の表紙イラストをあしらったポストカードを付録しています。購入希望の方は、三栄オンラインストア(https://shop.san-ei-corp.co.jp/shop/g/g001074/)まで。