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MotoGP ニュース

投稿日: 2019.02.03 06:00
更新日: 2019.02.03 06:01

ホンダ3冠の立役者、RC213V開発には「非常識にチャレンジすることも必要」/MotoGPインタビュー後編

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MotoGP | ホンダ3冠の立役者、RC213V開発には「非常識にチャレンジすることも必要」/MotoGPインタビュー後編

 2018年シーズン、MotoGPでコンストラクター、チーム、ライダーの3冠を獲得したホンダ。その立役者となったホンダRC213Vの強さに迫る特別インタビュー後編。前編に引き続き、ホンダ・レーシング・コーポレーション(HRC)でレース部門の責任者を務める桒田哲宏氏のインタビューをお届けする。

 前編ではホンダRC213V開発にあたってのポイントや、ミシュランタイヤの印象、そして2018年シーズンに投入された新しいフェアリングについて語られた。しかし、進化しているのは空力だけではない。ここ数年でパワーユニット、つまりエンジンにも大きな進化があったようだ。

■非常識にあえてチャレンジすることも必要だ

 ガソリンと空気を混ぜて燃焼させることで出力を得るレシプロエンジンは、誕生以来100年以上その基本構造は変わっていない。ましてやMotoGPマシンはレギュレーションで縛られており、そんななかでさらに出力を上げていくのは大変な作業である。開発ではいかにして改善策を生み出しているのだろうか。

「劇的に変化できる要素は年々少なくなっている」と桒田氏
「劇的に変化できる要素は年々少なくなっている」と桒田氏

「エンジンのパフォーマンスにはふたつの要点があります。ひとつは、どれだけ空気を入れて効率的に燃やすか。もうひとつは、いかに内部の抵抗を減らすかです。]

「エンジン内はオイルですべすべのイメージがあると思いますが、実は何トンという力が各パーツにはかかっていてそれが抵抗力になります。たとえ100馬力出していても、摩擦などで半分損していれば50馬力しか出ていないことになるんです。ただ、飛び道具的に劇的な変化を期待できる要素は、年々少なくなっています」

「まさに重箱の隅をつつくような作業ですが、それも効かなくなると、あとは非常識と思えることにあえてチャレンジしてみるしかありません。たいていは失敗しますが、成功すると大きく伸びることがある。ときにはガラッと変えてみることも必要なんです」

「一時的には下がりますが、伸びしろが増える可能性もあります。偶然やってみたらパワーが上がったので、突き詰めてみよう、とか。結果として、ここ数年でエンジン性能も飛躍したと思います」

 常に危機感を持って取り組んでいると桒田氏。ホンダはチャレンジが好きな会社だ。失敗を恐れていては伸びていけないし、スケールが小さくなってしまうことを恐れると言う。

「レース活動は大変ハードなものなので、モチベーションを保つには達成感がないと続かないんですね。だから、エンジニアがやりたいことは、意思を尊重してなるべくやらせたい。それが2017年あたりから良い方向に(進んだ)。会社として、チームとしての強さを引き出していければと思っています」

 点火時期の変更もその一例だろう。ホンダRC213Vは、2017型から爆発間隔を等間隔から不等間隔へと変えたと言われている。厳密にはV4エンジンに等間隔はあり得ず、そう単純なものではないだろうが、イメージとしてそれに近いかもしれない。

 点火時期によってエンジン特性は大きく変わる部分だ。高性能エンジンではシリンダー中の空気の流れは音速レベルになり空気の渦が互いに干渉し始め、多気筒エンジンほど大きな影響を及ぼすという。

 それが出力に対してマイナスな影響を及ぼしていれば、改良すると出力特性も変わる。振動の出方が変われば摩擦も改善されるなど、パフォーマンスと大きく関係する部分なのだ。かつてホンダF1のV10エンジンの開発を手掛けていた桒田氏にとって、そこで得られた知見をMotoGPマシンにも活かせるのが強みだ。

■2018年に投入されたカーボンスイングアーム

 空力やエンジンに加え、シャシーに関してはどうだろう。目につくところでは、2018年シーズンの途中からカーボンスイングアームを投入したことが挙げられる。

2018年のホンダRC213Vにはカーボン製と見られるスイングアームがしばしば登場した
2018年のホンダRC213Vにはカーボン製と見られるスイングアームがしばしば登場した

「(カーボンスイングアームを投入したのは、)メリットがあると判断したためです。もちろん軽くなるし、バネ下を軽くするとサスペンションの作動性も上がり路面追従性も良くなります。また、素材を変えることで剛性バランスも変わり、ライダーのフィーリングやトラクションの感じ方も変わってきます」

「実際にテストしてみてライダー側の感触も良かった。カーボンは製造するも大変ですが、トライしてみようということになりました。ただ、サーキットによってはマッチしないこともあるので、従来のアルミ製と両方を使い分けています」

 スイングアームにカーボン素材を使う試みはこれまでにも存在したが、今まではコスト面や精度面などの問題もあった。今回の投入は、コストと性能のバランスがとれてきたということだろう。アルミとカーボンそれぞれに良し悪しがあり、物性の違いもあるなど分析し切れていない部分もあるそうだ。

 特にライダーの感性を数値化することは非常に難しく、しかも目に見えてタイムに現れるものでもないという。手探りのなかで改善のきっかけを見つけていくのもまた、レースなのだ。

 桒田氏曰く、“速さ”を決めるのはトータルパッケージとしての完成度なのだという。巨大なパワーがもたらすトラクションを効率的に路面に伝えるためにはシャシー開発が必要となり、最高速を上げるにはパワーに加え空力性能が重要になってくる。

 有り余るパワーでも使い切れなければ意味がないし、ロングストレートでは有利でもショートコースでは役立たない。パワーの先にある限界点を押し上げていくのが、シャシーや空力の性能なのだ。

■「ダニは素晴らしいライダー、我々の力が一歩足りなかった」


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