イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム後編をお届け。後編ではスズキのアレックス・リンスがレース中に行った戦略とミス、1周目の多重クラッシュについて分析する。
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アレックス・リンスは第12戦イギリスGPでスズキGSX-RRの強みを見事に引き出した。コーナースピードにおけるアドバンテージで、加速のパフォーマンス不足を埋め合わせることができたのだ。高速コーナーをライバルよりも速く通過できたら、リンスはそのスピード差を次のストレートに持ち込めるだろう。
レース中、リンスはマルケスとは異なるラインを取っていた。マルク・マルケスがホンダRC213Vをエイペックス(コーナーの内側の頂点)に到達させる一方で、リンスはよりワイドなラインを取っていた。
コーナー立ち上がりのパフォーマンス不足を埋め合わせる賢いやり方は、コーナー進入時に引き下がることだ。そうして前にいる遅いバイクにエイペックスでスローダウンさせられないようにするのだ。一瞬引き下がることでスペースが生まれるため、そのスペースを使用してコーナーをより速く通過することができる。これをうまくやれば、コーナー出口でライバルを抜くことになるだろう。コーナースピードを使い、大きな馬力に打ち勝つのだ。
リンスはこの作戦を何度も行なっており、彼が最終ラップと思い込んで行なった13コーナー、14コーナー、15コーナーのセクションを通しての攻めは顕著だった。
13コーナーに差し掛かる際、リンスはマルケスから数メートル引き下がった。そうして、13コーナーでタイトなライン取りをすることができ、続く14コーナーへのワイドで高速なラインを確保した。これでリンスは14コーナーを通過中にコーナースピードを活かすことができ、15コーナーでマルケスのイン側をつくことができたのだ。
■リンスが行ったシュワンツと同じ悪いクセ
もしリンスとスズキがこのように仕事を続けていけば、彼はケビン・シュワンツ以来スズキで最も成功したライダーになるチャンスを掴めるかもしれない。シュワンツは1988年から1994年の間にスズキRGV500で25回優勝したのだ。
リンスとシュワンツを比べるのは、多くの理由から正しいことではないだろう。ふたりは非常に異なる性質を持っている。シュワンツは騒々しく、向こう見ずでワイルドだった。一方、リンスは物静かで謙虚であり、マナーが良い。リンスはシュワンツのような自信たっぷりの態度を取っていない。だがそうした態度は多くの成功から生まれるのかもしれない。リンスの18コーナーでのアウト側からイン側への見事な攻めは、シュワンツを多少彷彿とさせるものだった。
リンスはシルバーストンでシュワンツの特質のひとつを示した。シュワンツはレース中に後ろを振り返るという悪いクセがあり、そのせいで多くのミスを犯した。肩越しに素早く後ろを見る場所と時間はあるが、それを行えるのは大抵はフリー走行の間だ。コースの一部で、前方への集中を途切らせることなく、自分の後ろがどうなっているのか素早くチェックするのだ。
リンスはイギリスGPのレースを台無しにするところだった。あと3周を残すところで、7コーナーの右カーブの立ち上がりで後ろを振り返ったのだ。ここは目を離すのには良くない場所だ。7コーナーの次には最短のストレートが続き、コースのなかで最低速コーナーである8コーナーの入り口に下っていく。リンスが後方のビニャーレスを振り返り、再度迫ってくるコーナーにまた集中を切り替えるまでに、彼は8コーナーでまさにヘマをして転倒しかけた。