イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラムをお届け。第15戦タイGPでタイトルを手にしたレプソル・ホンダ・チームのマルク・マルケス。そのマルケスが持つ唯一無二のライディング技術がMotoGPクラスにデビューして以降の7年間で6度の王者に輝いた要因だとオクスリーは分析してきた。そのライディング技術をMotoGP関係者に聞いていく。
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マルク・マルケスは、他に誰もできないことをすることで、半世紀前のジャコモ・アゴスチーニ以来、誰よりも高いタイトル獲得率を達成している。
お気に入りの道のカーブを少し速いスピードで曲がってしまい、息を止めてハンドルバーを握る手を緩め、すべての罪への許しを求めるあの感じが分かるだろうか。そしてうまくカーブを抜けたものの、心拍数が急上昇し、胃がひっくり返るあの感じが。恐ろしいが高揚する感じ……。それがバイクに乗るということのすべてだ。
私はマルク・マルケスが毎回コーナーを攻めるたびに、そう感じているのではないかと想像する。フロントタイヤはのたうち、アスファルトに黒い跡をつける。ハンドルバーはコーナーに差し掛かるにつれ何度か傾けられ、肘は転倒防止のために使われる。そして高く、高く、彼方へと向かう。全開のスロットルにエキゾーストの爆音、ホイールスピンの振動、そしてマルケスは走り去る。
このようにコーナーへ進入できるのは、MotoGPクラス6度の王者マルケスだけだ。どうしてだろうか? ライバルファクトリーチームの匿名エンジニアが、私に次のように語った。
「バイクレースで切実に求められていることは、フロントエンドのスライドをセーブできるデバイスを常に見つけ出すことだ。今ホンダはそれを手に入れた。それはマルク・マルケスと呼ばれている」
それほどに単純なことだ。まあ、大筋ではそうだ。他の誰もできないことでマルケスができることのひとつは、絶えずバイクの性能を覆すことだ。具体的にはフロントタイヤのトラクションの限界を超えさせるのだ。
これはマルケスに最大のアドバンテージを与える独自のスキルだ。このことは、MotoGPでコース上のライダー全員を監視し、ピットですべてのデータを分析しているタイヤとサスペンションのトップクラスの専門家たちが認めている。
「私は、マルクのようなやり方でフロントをコントロールしているライダーは他にいないと思う」とミシュランのMotoGP部門責任者を務めるピエロ・タラマッソは語る。
一方、オーリンズのレースエンジニア、トーマス・アラタロは「マルクのライディングスタイルは唯一無二のものだ。他に誰もあれほど長くフロントをスライドさせて走行できない」と付け加える。
「マルクはコーナー進入時とトレイルブレーキング(ステアリングを切りながらブレーキングを続けること)を行うエリアにおいて、どれだけブレーキを酷使できるかについて、ある種非現実的な感触を得ている。だから彼はコーナー進入の最終段階でタイムの多くを稼いでいるのだ」
タラマッソとアラタロがマルケスのクルーではないことを理解してほしい。彼らはすべてのライダーと仕事をしている。だからこのようなことを語ることは、ピットレーンで友人よりも敵を増やすことになる。言い換えれば、彼らは語った通りのことを意味しているのだ。