第2戦ドーハGPの決勝レース最終ラップ、モンスターエナジー・ヤマハMotoGPの青いバイクがトップでフィニッシュラインに飛び込んだ。開幕戦カタールGPと同じように、ポジションをいくつも上げての勝利。しかし、その役者は異なっていた。優勝したのはもうひとりのヤマハファクトリーライダー、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)だった。
クアルタラロは5番グリッドからスタート。4周目には9番手にまで後退した。ちなみに、現在のMotoGPですべてのマニュファクチャラーが導入しているホールショットデバイスについて、現在ヤマハとスズキはリヤ側のデバイスのみである。
マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は予選後の会見でスタートについて語るなかで「必要なものは、フロント側のスタートデバイスだ。これは大きな差だよ。でもヤマハも一生懸命に進めてくれているから、間もなく投入されるだろう」と述べていた。
フロント&リヤのホールショットデバイスを持ち、スピードに優れ、さらにフロントロウに並んだドゥカティの前に出ることは難しい状況だったようだ。
さて、スタートで後退したクアルタラロは一時、トップを走るホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)との差が1.7秒あった。ただ、このレースではまるでMoto3クラスのように各ポジション、各ライダーの差が僅差のまま推移し、最終的には15位までのライダーが9秒以内でフィニッシュ。接戦を物語る結果となっている。こうしたレースのなかで、クアルタラロは少しずつポジションを上げていった。残り4周でトップに立つと、そのまま優勝を飾ったのである。
「10コーナーや15コーナーのようなオーバーテイクのポイントではとてもいいフィーリングがあって、そのときに勝てるかもしれないと感じたんだ」と、クアルタラロは決勝レース後の会見のなかで振り返った。
「先週はルーキーやアマチュアレーサーのように走っていた。マップを何もいじらなかったし、リヤタイヤをコントロールしなかった。(開幕戦のあと)3日間ホテルにいて、どうして考えなかったんだろうと思っていた」
「(今日は)8コーナー、9コーナー、10コーナー、それから15コーナーのオーバーテイクは素晴らしい感じがあった。同時に、フロントにもかなり自信があったんだ。2020年はコーナーに入っていくとフィーリングがなく、それからフロントを失っていた。でも今年のバイクは、フロントに少し自信を持てる。限界がもう少し先にあると感じるし、これは僕が速く走るために必要なことだ。だから、カタールで優勝できた。すべてのレースでそれを持っていることを願おう」
前戦カタールGPでは、マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)がポールポジションスタートから落としたポジションを回復していき、そして優勝を果たした。ドーハGPではクアルタラロが9番手まで後退して、そこから優勝してみせた。2020年のヤマハは、先行逃げ切りや序盤でトップに立ちそのままポジションをキープしての優勝がほとんど。しかし2021年シーズン、追い上げ、オーバーテイクのレースを演じて2勝を飾っている。
確かに、カタールだけで行われたここまでの2レースで何かを論じるには早計だ。だからこそクアルタラロも上述のように「すべてのレースでそれ(フロント側の自信)を持っていることを願おう」と言及しているのだろう。ただ、ヤマハが昨年とは異なるレースを見せた2戦だったのは確かだった。
そして、第2戦ドーハGPの2位にはヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)、3位にはホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)というドゥカティのサテライトチーム、プラマック・レーシングのふたりが入った。ザルコは開幕戦に続き、2戦連続の2位表彰台で、第2戦を終えてチャンピオンシップリーダーとなった。
ザルコは2019年シーズン半ばにKTMとの契約を終え、終盤3戦には中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)の代役として参戦。2020年にはドゥカティのサテライトチーム、エスポンソラーマ・レーシングに加入……。と、波乱万丈とは言い過ぎかもしれないが、なかなか難しいシーズンを過ごしてきたのはご存知のとおりだ。ザルコは今のチームで心地よい雰囲気を感じているそうで、そういう環境もよい影響を与えているようだった。
「2年前、いくつかの決断を下した。今はとてもうれしい。トップに戻ってこられたからね。いいレースができたし、とても楽しんだ。それをコントロールするのは気持ちのいいことだったよ」
そして、ルーキーにして3位表彰台を獲得したマルティン。ポールポジションを獲得した予選後の会見では「僕にとってはルーキーのシーズン。ルーキーとしていいスタートを切り、タイヤをマネジメントして、ライバルが僕をパスしたらついていこう。ラインを学びたい。このレースの間に、自分を成長させたいんだ」と謙虚なコメントをしていたが、ふたを開けてみれば18周にわたってレースをリードしてみせた。
第2戦にしてポールポジションからスタートすることになったグリッド上では、緊張していたと言う。しかし、そのレースについてはクレバーさを失うことはなかった。
「僕としては、(今回は)ルーキーのレースだったと思う。プッシュしようとはしなかったし、タイヤをマネジメントしようとしていた。(2周目には)攻めずに1分55秒2を出せて、十分だと思った。このペースをできるだけ維持しようと思ったんだ。そして、集中力のマネジメント、それからタイヤのマネジメントを少し学んだ。それから、フルタンク状態のバイクもね」
ここで、ルーキーのマルティンがどのように経験を積んできたライダーなのかをうかがわせるコメントを紹介したい。23歳のスペイン人ライダーであるマルティンは、2018年にはMoto3クラスでチャンピオンを獲得、2020年にはMoto2クラスでランキング5位を獲得して2021年シーズンにMotoGPクラスに昇格した。最高峰クラスの昇格にあたり2020年には、ドゥカティのほかにもいくつかのマニュファクチャラーが彼の獲得を検討していたようだった。第2戦の結果はそのポテンシャルを証明した。マルティンは、予選後の会見で、次のように語っている。
「まだ若いときから、マーベリック(・ビニャーレス)やアレイシ・エスパルガロにとても助けてもらっていた。僕たちはほとんど一緒に住んでいたようなものだった。彼らは僕を家から連れ出して、トレーニングに連れていってくれた。バイクを買うお金がなかったから、僕はバイクを持っていなかったんだ。マーベリックとアレイシにお礼を言わないといけないね。もちろん、MotoGPライダーとのトレーニングは……そのときはMoto3にいたのだけど、とても役に立った。彼らは僕を成長させてくれようとしていたんだ」