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MotoGP ニュース

投稿日: 2021.08.18 22:01
更新日: 2021.08.18 22:10

【EWCエストリル12時間】猛暑でのタイヤマネジメント。優勝を決めたライバルへのプレッシャー/TSRホンダ高橋裕紀インタビュー

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MotoGP | 【EWCエストリル12時間】猛暑でのタイヤマネジメント。優勝を決めたライバルへのプレッシャー/TSRホンダ高橋裕紀インタビュー

 2021年からF.C.C. TSR Honda Franceに加入してFIM世界耐久選手権(EWC)にフル参戦している高橋裕紀。7月17日にポルトガルのエストリル・サーキットで行われた第2戦エストリル12時間耐久ロードレースでは優勝を果たして初の表彰台獲得となった。第1戦ル・マン24時間に続いて、3人で4スティントずつ走り切ったエストリル12時間の振り返りを聞いた。

 高橋は全日本ロードレース選手権に日本郵便HondaDream TPから参戦しているが、今シーズンはジョシュ・フックとマイク・ディ・メリオとともにF.C.C. TSR Honda France(TSRホンダ)からEWCにも参戦している。EWCでは、第1戦ル・マン24時間を走り切り自信がついたと話していたが、予選は総合6番手、決勝では9位となり成績が振るわなかった。

 エストリルでも苦戦を余儀なくされ、「ウイークに入った時点では1分40秒~39秒台も難しくて、予選も使って電子制御と車体のセットアップをしていました。ル・マン後の(セッティング)変更が上手く機能しなくて、いろいろなことを試して、少しでも良い状態にしようとしました」と高橋は明かした。

高橋裕紀(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間
高橋裕紀(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間

 また、予選では他チームが予選用タイヤを履いてタイムを上げていたなかでも、TSRホンダは決勝用のタイヤを履き続けてセットアップを進めていたという。

「予選用タイヤを履くと、グリップ感が変わってセッティングが狂ってしまうので履きませんでした。予選は、途中で戻ってきてセッティングを変更して、それでタイムが上がればラッキーくらいな感じで進めていました」

「予選初日に行われた夜間走行の最後の最後で、電子制御を含めていい方向に進み、そこで3人ともアベレージが一気に1秒くらい上がりましたが、それでもトップ3チームの速さまでは足りませんでした」という通り、TSRホンダは1分39秒309で予選総合4番手タイムを記録した。

「(レースウイーク)初日の段階で7番手で、タイム差も結構あり(雰囲気が)真っ暗な感じでしたが、4番手は良かったと思います。ただ、チャンピオンシップを考えて、予選と決勝でヨシムラSERT Motulの前に行くことがチームの目標だったので、予選3番手のヨシムラSERT Motulからポイント差を最低限に抑えられたのは良かったと思います」

2周目にトップを奪ったF.C.C. TSR Honda France/2021EWC第2戦エストリル12時間
2周目にトップを奪ったF.C.C. TSR Honda France/2021EWC第2戦エストリル12時間

■3人で4スティントずつ走行した決勝。気温と路面温度がカギに
 ル・マン24時間ではジョシュ・フック、マイク・ディ・メリオに続き、3番目に走行を行った高橋だが、エストリル12時間の決勝ではマイク・ディ・メリオに続き2番目の走行となった。

 レース開始から約56分で、ライバルチームのヨシムラSERT Motul、BMWモトラッド、YARTヤマハ、SRCカワサキに続き5番手でバトンを受け取った高橋は1スティント目を以下のように振り返る。

「土日で気温が上がり、気温は30度を超え、路面温度は60度近くまで上がり、リヤタイヤが厳しいことは想定していました。他のブリヂストン勢も一緒で、ペースが良かったYARTヤマハは後半の数十分に一気にタイムが下がっていました」

「タイヤ右側の消耗が激しいので走行ラインも変えて、僕たちは一時間(1スティント)で、最初から1分40秒~41秒台で走行できるようにしっかりとタイヤマネジメントをして、そのなかで一番良いタイムで走ることだけに集中しましたね。その結果、僕の1スティント目後半はトップよりもタイムが良いくらいのペースで走れていたみたいです」

 上位陣から差が開き、ペースアップが可能ななかでも、高橋は「焦りはありませんでした」とル・マンでの経験を活かして1分40秒~41秒台をキープし続ける。

「ル・マン24時間で耐久レースの大変さはわかりましたし、自分たちのやるべきことだけに集中しました。それで差が縮まればラッキーだし、開いてしまっても仕方ないので、自分たちができる目一杯のタイムで走り続けました」

 高橋の2スティント目はBMWモトラッド、ヨシムラSERT Motulが転倒を喫したため3番手でバトンを受け取った。

「猛暑の難しさからトップ2チームが転倒して、(TSRホンダの)3人ともに第1スティントを終えた時点で、改めて自分たちのすることに集中しました。走行2、3回目が一番気温が高くなったので、転倒のリスクもあるけど、ラップタイムのアベレージを下げないようにしましたね」

「ライダー交代の際もマイクが『リヤタイヤがキツい。最後は本当に気を付けろ』と言うし、マイクも後半の数十分間は難しそうにタイムを出していたのは見えていたので、頑張りすぎても最後に(ツケが)回ってくるのでさらにタイヤをマネジメントしました」

高橋裕紀(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間
高橋裕紀(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間

 3スティント目はYARTヤマハも転倒したことで2番手となり、トップを走るSRCカワサキを追う展開となる。しかし、暑さでタイヤの消耗も激しくなり、ライバル勢の転倒も見ていたため、さらに我慢の時間が続く。

「頑張れば1分40秒台で走れるけど、後半にタイヤのスライドが激しくなった時に、どこまでタイヤがもつかギリギリでした。チームも『無理するな。1分40秒台で走る必要はない。1分40秒後半から41秒前半をキープすればいい』と言ってくれたので、3人のライダーが同じ指示のもとで暑い時間帯は我慢をして走っていましたね」

 そして、高橋の最後の走行となる4スティント目は、首位のSRCカワサキをターゲットに追う展開となった。

「気温も下がってきて、ペースを上げられるようになり、ライダー交代時も『だいぶプッシュできるようになってきた』というコメントだったので、SRCカワサキを追い詰めていける状態に変わってきました。(ライバルから1回少ない)ピット回数を考えれば、20秒~10秒とどんどん追いついていきましたが、残念ながら2回目のキャリパー交換をしないといけませんでした」

 TSRホンダは、レース開始から約7時間後にキャリパー交換を行っていたというが、リスクも考慮して高橋へのライダー交代の際に2度目のキャリパー交換が必要となった。

「頑張ってタイムを詰めたところで、(ピットストップに)プラス30秒くらいかかるので、実力で30秒縮めて、実質(優勝は)厳しかったです。しかし、今回は僕もアベレージタイムが良かったので、『あのライダーに変わるから大丈夫だ』という感じはなくて、ペースが速かったマイクと僕が涼しくなったレース後半にプッシュしてプレッシャーをかけました」

「SRCカワサキがわかっていたかは知りませんが、TSRホンダはキャリパー交換で30秒かかるから、SRCカワサキが安全マージンをとってもう一周減算してピットに入っていれば勝てませんでした。SRCカワサキがプッシュしすぎてガス欠になり、ギリギリの心理戦に持ち込めていたというのが勝因だったのかもしれないですね」

 そう語る通り、高橋の走行中にSRCカワサキはガス欠になり、最後のピットストップでタイムを大きくロスする。TSRホンダはトップで最後のピットストップを終えて、ジョシュ・フックに交代。高橋とマイク・ディ・メリオは残り1時間を見守る立場になった。

 また、最後のスティントは「ホッとした方が大きいですかね。4スティント目は今更だと思うけどと自分に言い聞かせながら早めにシフトアップしたり、シフトダウンもエンジンに負担をかけないようにゆっくり気づかいをしながらして、バイクが最後まで走るように労わって、祈るような気持で走っていました」という。

高橋裕紀(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間
高橋裕紀(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間

 残り1時間は「長かったですね。自分たちは2番手に約2周くらい差を広げていたので、プッシュする必要はまったくありませんでした」と高橋は話した。

「あとは2番手争いしていたSRCカワサキとBMWモトラッド、ペースが速かったYARTヤマハといった周回遅れの集団がでジョシュに追いついていたので、そこで接触とかしないでくれよと……」

「追いかける方は突っ込んでくるし、2位争いもしているのでギリギリで抜いてくる可能性があったので、そこで集団が抜いた瞬間はホッとして、落ち着けましたね。それがなければジョシュは走り切ってくれるというのはわかっていました」

トップでチェッカーを受けたジョシュ・フック(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間
トップでチェッカーを受けたジョシュ・フック(F.C.C. TSR Honda France)/2021EWC第2戦エストリル12時間

 そのままトラブルが起きることなくF.C.C. TSR Honda Franceは417周を走り切りトップチェッカーを受けた。

「ここまでライバル勢にトラブルが出るとは思いませんでしたが、思い通りだったと思います。優勝を目指してプッシュしましたが、こういった波乱のレースになるだろうから、自分たちが出来る限りのことを淡々とやっていきました」

 レース後の感想は「嬉しかったというのと、もしどこも脱落していなければ優勝はもちろんなかったし、勝てる時はこんな感じなのかなという不思議な気持ちになりましたね」と語る。

「逆に転倒していたら終わりなので、耐久レースに勝つときは勝っちゃったという雰囲気。淡々と頑張っていて終わったらトップにいたというか、耐久レースならではだなという不思議な気分の嬉しさでした」

「ジョシュもコメントで『3日前にレースに勝てるかと聞かれたら、おそらく勝てないと答えていたはずです』と言っていたくらいハードなレースウイークだったので、そこの流れからしたら、チームスタッフを含めてすべての人が自分たちのできることをやった結果という、その嬉しさはすごくありましたね」

「それでもル・マンみたいに起きてしまうことは起きるし、いろんなことが起きるので、そういう意味での緊張感がほどけた感じでした」

優勝したF.C.C. TSR Honda France(ジョシュ・フック/高橋裕紀/マイク・ディ・メリオ)/2021EWC第2戦エストリル12時間
優勝したF.C.C. TSR Honda France(ジョシュ・フック/高橋裕紀/マイク・ディ・メリオ)/2021EWC第2戦エストリル12時間

■ランキング2位で臨む第3戦ボルドール24時間
 TSRホンダは、エストリル12時間で優勝したことから、87ポイントでトップのSRCカワサキに続き、82ポイントでランキング2位となった。

 王者の可能性があるなか、次戦ボルドールの意気込みを「ポイント数も多いですし、すごく重要になってくると思います。ボルドールの開催地であるポールリカールは唯一走ったことないので、いかに自分が他のふたりのライダーのレベルに合わせていけるかになります」と語る。

「今回に関しては、レースウイークを通して比較的に自分が一番速かったんですよね。マイクも頑張ってタイムを上げてきて、ジョシュも足を引っ張らないように上げてきてくれましたが、ル・マンでは自分が3番手でふたりに追いつかなければならない状態でした。ボルドールは知らないサーキットだけど、この流れで、自分が足を引っ張らないように、自分が引っ張っていく気持ちで挑みたいと思います」

 また、最終戦の鈴鹿8耐にKawasaki Racing Team Suzuka 8HとTEAM HRCが参戦することが決定したことについては以下のように語った。

「もちろん優勝を狙いますが、レギュラー参戦で走る鈴鹿8耐とスポットで走る鈴鹿8耐で考え方が変わってきています。スポット参戦だと勝つために戦いますが、レギュラー参戦でチャンピオンシップを戦うと、鈴鹿8耐は大切ですが、年間ポイントの方に頭がいきます」

「ただ、鈴鹿8耐を盛り上げるためにTeam HRCやカワサキワークスが出てきてくれるというのはものすごいことだし、一緒に走ってみたいという気持ちもあり、楽しみが増えたなという感じです」

優勝したF.C.C. TSR Honda France(ジョシュ・フック/高橋裕紀/マイク・ディ・メリオ組)/2021EWC第2戦エストリル12時間
優勝したF.C.C. TSR Honda France(ジョシュ・フック/高橋裕紀/マイク・ディ・メリオ組)/2021EWC第2戦エストリル12時間


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