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MotoGP ニュース

投稿日: 2021.12.28 23:18

2度目のタイトルを獲得した渡辺一馬「努力し続けていれば報われることもある」/全日本ロードST1000 チャンピオンインタビュー

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MotoGP | 2度目のタイトルを獲得した渡辺一馬「努力し続けていれば報われることもある」/全日本ロードST1000 チャンピオンインタビュー

 2021年全日本ロードレースST1000クラスでシリーズチャンピオンを決めた渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)。2017年から3シーズン、カワサキでJSB1000クラスのエースとして活躍したが、チームの撤退とともに、シートを探すことになり、そこで声をかけてくれたのがKeihin Honda Dream SI Racing(現:Astemo Honda Dream SI Racing)だった。伊藤真一が監督を務め、チームの主なベースは小原斉が率いる小原レーシングとなり、チーム高武RSCがコラボレーションする新体制だった。一馬にとっては、2013年に全日本ロードST600チャンピオンを獲った古巣とも言えるチームだった。

 しかし、JSB1000クラスに参戦した2020年シーズンは、思うように結果を残すことができず、4位を最高位にランキング5位という不本意なものだった。そんな一馬にオファーされたのは、2021年にST1000クラスにスイッチするということだった。

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

「ST1000クラスは、2020年に始まり盛り上がってきていますし、2021年はさらに台数も増えることも予想されていました。チャンピオンになった高橋裕紀選手を始め、元気のいい若手もいるので、レベルの高いクラスだし、すごくおもしろそうだと思っていました」

「タイヤはワンメイクですし、バイク的に触れるところも少ないので、ライダーの腕も問われるところですが、チームとライダーが、どうバイクを作り上げるかも重要。ST1000クラスを戦うことに関してはネガな感情はありませんでした」

 そんな一馬が、ST1000仕様のホンダCBR1000RR-Rをライディングしたのは、3月の筑波スポーツ走行だった。

「マシン的には、JSB1000仕様と基本は一緒なので、タイヤの違いが大きかったですね。タイヤも温度レンジが広いものでしたし、クセもなかったので、走り始めから楽しく乗ることができていました。その印象は、ツインリンクもてぎに行っても変わりませんでした」

 ST1000にスイッチして、走り始めから好調だった一馬。開幕前のテストでもトップタイムをマーク。アベレージもよかったこともあり自信を持ってレースウイークに入っていた。しかし、決勝直前に雨が降り、路面はウエットからドライに急激に乾いて行く難しいコンディションとなる。

 結果的にスリックタイヤをチョイスしたことが正解だったが、ピットスタートから追い上げた高橋裕紀が驚異的な速さを見せ優勝。一馬は高橋に抜かれてから、まったくついて行けずに2位でフィニッシュしている。

「終わってみればマージンを取りすぎていたのかもしれませんが走っているときは必死でしたし、高橋選手が、どんなペースで走っていたかレース中は分かりませんでした。いい負け方ではなかったですが、高橋選手の速さが際立っていましたし、前年のチャンピオンに続いての2位という結果は悪くないと自分自身に言い聞かせました」

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

 今シーズン、高橋はFIM世界耐久選手権(EWC)を主戦場とし、全日本ロードにはフル参戦できないことが決まっていただけに、実質的に優勝に等しい2位と言えるが、ライダーとしては悔しい負け方だったと言う。

 続くSUGOラウンドでも調子はよく、混戦から抜け出すとファステストラップを出しST1000クラス初優勝をマーク。ポイントリーダーに躍り出る。

「高橋選手は以前から目標にしている選手のひとりですし、存在は意識していました。このSUGOラウンドの後は、全日本ロードに出られなかったので、いるときに勝てたことは、うれしかったですね」

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

 ST1000クラスを初開催となった筑波ラウンド。唯一の2レース開催となるだけに、重要なレースとなることは間違いなかった。3月に初めて走ったときは、いいフィーリングだったが、事前テストではマシントラブルからの転倒もあり、今ひとつ波に乗れていなかった。

「気温が上がったからか3月に乗ったときとは、フィーリングが変わっていて、事前テストでの転倒で身体も痛みがありました。レース1は雨になり3位、レース2はスタートからトップに立つもののトラブルが出てしまいノーポイント。それでも同ポイントでランキングトップのまま終われたので後半戦で頑張ろうと気持ちを切り換えました」

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

 筑波を終えた時点では、一馬とチームメイトの作本輝介が61ポイントで並び、これを榎戸育寛が6ポイント差で追う状況だった。

 そして今シーズンのターニングポイントとも言える鈴鹿ラウンドを迎える。本来ならば鈴鹿8耐が開催される日だったが、コロナ禍のためにスケジュールが変更され、真夏の鈴鹿で全日本ロードが開催されることも異例のことだった。

 ここで速さを見せたのが作本だった。2列目からホールショットを奪うと、そのままレースをリードしていく。これに一馬とBMWを駆る渥美心、ヤマハの岡本裕生が続きトップグループを形成していたが、レース終盤にさしかかったところで渥美が作本を巻き込む形でふたりとも転倒。目の前で起きたアクシデントにより一馬はトップに立ったが、その後も岡本、そして追い上げてきた南本宗一郎とバトルを展開。ヤマハの若手の追撃を振り切りトップでゴールし、今シーズン2勝目を挙げた。

 この優勝は大きかった。作本がノーポイントに終わったため、大量リードを築くことに成功。第6戦岡山国際でチャンピオンを決める可能性もあったが、ここは作本が意地を見せ優勝。一馬は3位に入り、最終戦オートポリスでは9位以内に入れば自力チャンピオンという有利な状況となっていた。

「全てのレースが大事でしたけれど、鈴鹿の優勝は大きかったですね。ポイント差を築けたので、精神的にかなり楽になりました。岡山国際で決めたい思いもありましたが、とんでもないくらいスタートを失敗し、集団に埋もれてしまったので“ここは固く行こう”と切り換えました」

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

 オートポリスは一馬が得意なコースであり、普通に走れば大丈夫だと頭で分かっていても、チャンピオンへのプレッシャーがあったと言う。

「タイトルを争うのは、2013年以来でしたし、ちょうど新型コロナ感染者も増えていたので、レース前は、すごく気を使いましたし、神経がすり減りましたね。平常心を保つのが難しい状況でした」

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

 それでも予選ではポールポジションを獲得し、着実にタイトル獲得に向けて前進していた。

「かっこよく勝って決めるのが理想でしたが、スタートすると手堅く決めたい気持ちが出てしまいました。南本選手との3位争いになりましたが、最終ラップの第2ヘアピンでは、接触しかけたので、最後は距離を空けて4位でゴールすることを選びました」

「うれしいというよりもホッとした気持ちの方が強かったですね。それは時間が経っても同じです。ただ、多くの方に祝福してもらい、その方々がよろこんでくれているのを見ていると、すごくうれしい気持ちになりますね」

「辛く苦しい時期は、努力していても報われないな、と思ったこともありましたが、努力し続けていれば報われることもあるんだと思えたシーズンでした。伊藤監督、小原さんを始め、チームのみんなが味方でいてくれましたし、結果が出ないときも支えてくれました。Astemoグループとして大きな支援をしてくださっていたことも精神的に大きかったですね。本当に感謝という言葉以外見つかりません」

 レースが好きだからこそ続けて来られたと言う一馬。楽しむためには、余裕がなければできない。その余裕は、ハード、フィジカル、メンタルが高い次元で融合していないと生まれない。あらゆるスポーツで心技体がそろわなければ、いい結果を残すことはできないが、その辺もモータースポーツが“スポーツ”と言われる所以でもある。

ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン
ST1000:渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing)/2021年全日本ロードチャンピオン

「チャンピオンに手が届くところまで行けていない時間が長かったので、今年は、シーズンを通してトップ争い、チャンピオン争いができたことは、よかったと思います。ライバルも自分より若いライダーばかりだったのも初めてのことでしたし、みんな勢いがあります」

「その中で、いかに安定して結果を残すためにできることを考えていました。フィジカル面では、どんなトレーニングをすれば分かっているので、いい状態をキープできていましたし“常にレースを楽しもう”ということも実行できたので、精神面で成長できたと思います」

 来シーズンに関しては、まだ決まっていないが、ゼッケン1をつけてST1000クラス続投という道も魅力的だと語る。31歳となり、脂ののりきった一馬が、2022年も全日本ロードを盛り上げてくれそうだ。


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