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MotoGP ニュース

投稿日: 2022.04.12 22:53
更新日: 2022.05.11 20:58

【渥美心のEWC参戦記】フル参戦に向けてフランス移住を決断、事前テストで憧れのル・マンを走行

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MotoGP | 【渥美心のEWC参戦記】フル参戦に向けてフランス移住を決断、事前テストで憧れのル・マンを走行

 2022年はOG Motorsport BY SarazinからFIM世界耐久選手権(EWC)に“フル参戦”することになった渥美心選手。そんな渥美選手がEWC参戦のなかで感じた、日本のレースとの違いや耐久レースならではの出来事や裏側を語ります。

 今回は開幕戦ル・マン24時間に向けて、準備やフランス移住、事前テストなどの大忙しの日々を渥美選手と同行している広報兼ヘルパーの目線でお伝えします!

※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 2022年シーズンは、フランスのチーム『OG Motorsport BY Sarazin』に所属しFIM世界耐久選手権(EWC)にフル参戦します。当チームは昨年のボルドールで、私にとって初めての24時間耐久レース挑戦の機会をくださったチームです。その時の走りを評価して頂き、今シーズンも引き続き一緒に戦おうとオファーを頂きました。

 また当チームは、今シーズンよりヤマハのオフィシャルチームになったことでよりポテンシャルの高いマシンで戦えることになりました。昨年も一緒に走ったアレックス・プランカッサーニュ選手(Alex)、そして元MotoGPライダーのロベルト・ロルフォ選手(Roby)と経験豊富なライダーがチームメイトであることも心強いです。

 素晴らしい体制で戦わせて頂けることに感謝し、SSTクラスでの優勝、チャンピオンを目指して全力で走ります。

ル・マン事前テスト:渥美心(OG Motorsport BY Sarazin)
ル・マン事前テスト:渥美心(OG Motorsport BY Sarazin)

■渡仏準備&フライトキャンセルと大忙し

 私たちはレースが開催される期間、フランスに移住をすることにしました。昨年参戦したボルドール24時間ではコロナ禍の影響で出発前に大変な思いをしましたし、スムーズな行き来ができないこと、帰国後2週間の隔離期間は普段から家でゆっくりと過ごすことに慣れていない私たちにとって家の中だけで生活することはかなり過酷で辛かったからです。

 また、チームの拠点であるフランスで生活をすることでチームとのコミュニケーションを多く取ることができ、連携が上手くいくようになると考えたからです。

 昨年は「来シーズン毎戦このような時間を過ごさなければならないのであればいっそのことチームの本拠地であるフランスに移り住もうよ!」なんて夢のような話を2人でしていたのですが、毎戦の渡航費や隔離、時差のある中での行き来などを考えると不可能なことではないと思い始めすぐにビザのことなど渡仏準備について調べ始めました。

 気づけば、私たちにとっての『フランス移住』は夢物語から現実的な話になっていたのです(笑) 日本では、平日はRSタイチで正社員として働きながらレース活動を行っていたので、4年働かせていただいていた職場を退職させていただくことを決意しました。年明けにはビザの申請も無事に通過し『タレントビザ』、いわゆる著名人・アスリート向けのビザを取得することができました。

 昨年10月に渡仏することを決断してからおよそ5カ月間、必死に渡仏準備を進め、ビザの取得、荷造り、退職、家も手放し、いよいよ出発だなと感慨深い気持ちに浸っていました。

 一安心していた矢先…… 出発の1週間前からウクライナ情勢の影響でフライトに影響が出てきており、搭乗予定だった航空会社の運航停止が3月1日に決定。搭乗予定が3月2日だったので、前日の午前中にフライトがキャンセルされてしまいました。

関西国際空港からフランスに出発する渥美心
関西国際空港からフランスに出発する渥美心

 キャンセルの連絡は航空会社から直接連絡が来たわけではなく、ネットでその情報を知りました。その後、航空会社に半日以上問い合わせ、連絡がつながったのは夕方。このような状況でヨーロッパへ渡って大丈夫なのかという大きな不安がありましたが、別の航空会社を見つけてロシア上空を避ける航路のドバイ経由でフランスに渡ることを決めました。

 そして、日本を出発してから24時間後に無事にフランスに到着しました。空港にはチームの方が迎えに来てくださり、とても安心しました。そこからたくさんの荷物をトラックにのせ、パリシャルルドゴール空港からチームの本拠地まで車で1時間半ほど移動しました。

 出発前はとにかく情報をリサーチしたりすることに必死で、「これからどんな生活が送れるのだろう」とワクワクしながら考える余地もないほど不安が大きかったです。

無事フランスに到着した渥美心
無事フランスに到着した渥美心

■無事フランスに到着! チームとの再会&夢のフランス生活

チームとの再会(Fabriceと)
チームとの再会(Fabriceと)

 チームのガレージに着き、みんなの顔を見るととても安心してようやくこれからここでの生活が始まるんだとやっと実感が湧いてきました!

 それから私たちは当初、パリに住むつもりで約2カ月間住居探しをしました。なぜパリに住もうかと思ったのかというと私たちは幼い頃から英会話を習っていて海外で仕事をすることにもとても興味があったのですがフランス語は話すことができないので、パリなら日本人経営のお店も多く仕事を見つけやすいと考えていたからです。

 が! なかなかパリでは簡単には家が見つからないのです。なぜなら、パリは人口が飽和しており競争率が高いので物件の値段がとても高くなかなか希望に合った条件の家を見つけるのは難しかったのです。結局出発までにパリに住居は見つけることができず、パリから150km離れたランス(Reims)という街にオーナーのアパートを貸していただいてそこに住むこと決めました。

 家の場所は、シャンパーニュ地方にあるぶどう畑に囲まれた小さな街です。この街の周辺には世界的にも有名なシャンパンメゾンが数多くあります。シャンパンとは、このシャンパーニュ地方で製造されたものだけを呼ぶのだとか。

フランスで住む家
フランスで住む家

 チームオーナーのファブリス(Fabrice)がこの街の出身なのですが、今回住むお家は1階がファブリスの住居で2階が貸アパートとして所有する家を今回貸してくれることになりました。この家が完成してから私たちが初めての住人だそうです。想像の何倍も広くて綺麗なお家で私たちはすぐに気に入りました!

 チームの拠点も毎日通える程近くにあります。これまでもレーシングライダーとしてチームに所属して活動してきましたが、自身とチームの拠点が近いことは今回が初めてです。

 フランスの貸アパートは基本的に家具から日用品(食器、タオル、消耗品など)まですべて揃っていることが主流で、すぐに生活を始めることができます。

 休みの日や平日の夜は1階に住むファブリスの家族と一緒に食事をいただいたり、困ったことがあればすぐに話ができる環境なのですぐに打ち解けることができました。

トレーニング用バイクも準備してもらいました
トレーニング用バイクも準備してもらいました

 平日は自宅からすぐ近くにあるチームの本拠地へ行きカウルの作成をお手伝いしたり、完成したバイクのシェイクダウンをしにミニバイクコースを走りに行ったり、ジムや自転車のトレーニングへ行ったりしています。

 渡仏してから約1カ月が経ち、ようやく生活にもリズムができて慣れてきました。今の生活は、完全にレースに打ち込むことのできる環境が整っているのでレーサーとして充実した毎日を過ごすことができています。

 3月初旬に移住しまだまだフランス語はまったく話せませんが、多くのフランス人の方と関わりを持つ中で考え方や文化の違いなどを学び、前回フランスに来た時よりはチームメンバーのことを理解できている気がします。

 多くの方のご協力があってこのような恵まれた環境での生活をすることができているので、モータースポーツのメッカであるヨーロッパのレーシングチームの運営や考え方などを学び、日本に戻った時にはそれを活かして活動していきたいと考えています。

OG Motorsport BY Sarazinのライダー3人
OG Motorsport BY Sarazinのライダー3人

■事前テストで憧れのル・マンを快走

 ついにシーズン開幕に向け最初のテスト(プレルマン)が始まります!

 ル・マンまでの移動はチームと一緒に、大きなトレーラーで4時間の移動です。ル・マンに到着すると、すでにたくさんのチームが来ていたのですが、やはりすべての規模が大きくてとても迫力があります。憧れのル・マン-ブガッティ・サーキットにとても感動していました。

憧れのル・マンに到着
憧れのル・マンに到着

 このテストではチームの半分以上のメンバーが集まりました。この日には今シーズンともに戦うライダーの、ロベルト・ロルフォ選手との初対面でした。

 彼はMotoGPやSBKなどのトップカテゴリーで活躍し、今大会FIM世界耐久選手権(EWC)では何度も表彰台に上り年間チャンピオンも獲得するほどの大ベテランライダーです。挨拶を交わした後は、一緒にコースを歩きながら、RobyとAlexに走り方や注意するポイントなどを細かくレクチャーしてもらいました。

Robyからレクチャーを受ける様子
Robyからレクチャーを受ける様子

 初日走行後のコメントは以下になります。

「午前9時から3時間のセッションが始まり、2人のチームメイトの後にコースインしました。バイクはセッティングする前でしたが乗りやすく、タイヤのグリップも良かったのでライディングに集中でき、短時間でコースに慣れることができました」

「ル・マンはストップアンドゴーで低速コーナーが多い印象を持っていましたが、コース幅も広いため想定していたよりもコーナーが緩く高い速度で曲がることができました。そのため攻略はそれほど難しくなかったです」

「また、チームメイトのレクチャーのお陰で注意すべきポイントが分かっていたので安心して攻めることができました。午後の4時間のセッションも合わせて50周近く走り、最終的にはチームメイトと遜色無いタイムで周回できるようになり良いスタートを切れました」

コース図に情報を書き込んで覚えている様子
コース図に情報を書き込んで覚えている様子

 2日目走行後のコメントとレースへの意気込みは以下になります。

「2日目も計7時間のセッションがあり、午前中は前夜に降った雨の影響によりウエット路面での走行の機会が得られました。ウエットになるとチームメイトとの身長体重の差によりネガティブな点が出てきたので、それを解決できるようにセッティングを進めていきました」

「午後のセッション開始時点では路面がほぼ乾きつつあったので再びスリックタイヤで走行し、最後の走行ではチーム内ベストを記録できました。私が設定していた目標タイムである1分38秒台にはコンマ数秒届きませんでしたが、それはレースウイークの予選で出せるように取り組んでいきます」

「この2日間でエンジニア、チームメイトとセッティングを進めていく度に乗りやすいマシンになっていったので、チーム力の高さを実感しています」

ル・マン事前テスト:渥美心(OG Motorsport BY Sarazin)
ル・マン事前テスト:渥美心(OG Motorsport BY Sarazin)

 今回は渡仏準備からプレルマンまでの様子をお伝えしました!

 私たちのフランスでの生活やレース活動を通して、このコラムを読んでくださっている皆様に勇気やパワーを与えられていたら幸いです。日本からは遠く離れた地での活動となりますが、今週末から始まる開幕戦ル・マン24時間耐久の情報もSNSを通して発信していきます。是非フォローを宜しくお願いします。

 いよいよ待ちに待った今シーズンが開幕します。初めてのル・マン24時間ですが、事前テストで様々なコンディションを経験できているので自信を持ってレースウイークに挑めます。

 体制が強化されたチームと今シーズン最初のレースを戦うのが非常に楽しみです。監督が言うにはル・マンのレースは暑い寒い、晴れ雨あらゆる条件がありえるそうです。どんな条件下でも過酷なレースになると思いますが、24時間レースでは1回の転倒やトラブルは日常茶飯事です。

 何があっても最後まで諦めることなく優勝を目指して走り切りますので、ゼッケン66 OG Motorsport BY Sarazinの応援をよろしくお願いします。

ル・マン事前テスト:渥美心(OG Motorsport BY Sarazin)
ル・マン事前テスト:渥美心(OG Motorsport BY Sarazin)


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