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MotoGP ニュース

投稿日: 2023.03.29 11:00
更新日: 2023.04.02 04:05

初開催のMotoGPスプリントレース。そのメリットと安全性/第1戦ポルトガルGP

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MotoGP | 初開催のMotoGPスプリントレース。そのメリットと安全性/第1戦ポルトガルGP

 初めてのスプリントレースは、レースの魅力が非常にわかりやすいものだった。しかしそれは、ライダーに緊張をもたらし、また、危険を含むものでもあった。ライダーはスプリントレースをどう考えているのだろうか。そして、スプリントレースは今後、どうあるべきだろうか。

 2023年シーズンMotoGP開幕戦のポルトガルGPでは、スプリントレースが初開催された。スプリントレースは土曜日の午後、日曜日の決勝レースの半分の距離で行われるレースである。ポルトガルGPでは土曜日のスプリントレースが12周、日曜日の決勝レースが25周で行われた。

 初のスプリントレースは、1周目から激しいバトルとオーバーテイクの応酬となった。フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)とホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)の優勝争いは最終ラップまで続き、3番手争いもマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)やミゲール・オリベイラ(クリプトデータRNF・MotoGPチーム)、ジャック・ミラー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)、アプリリア・レーシングのマーベリック・ビニャーレスにアレイシ・エスパルガロといった5人のライダーが、やはり最終ラップまでほとんどワンパックとなっていた。その一方で、転倒も発生した。

 接戦の優勝争い、激しいオーバーテイク、そしてクラッシュ。レースの魅力、面白さという要素が──もちろん、クラッシュについては魅力でも面白さでもない──ぎゅっと詰まったレース展開だった。それは、例えば新しいファンやこれからファンになるかもしれない人たちにとっては非常にわかりやすく、かつ短い時間で見られる、というメリットかもしれない。25周のレースはスタートからゴールまで約40~45分であるのに対して、スプリントレースは約20分。新たなファンの開拓、という点においては、有効なレースだろうと思える。

 その一方で、スプリントレースではレースペースも速く、ライダーたちは一様にアグレッシブになっていたように見えた。25周のレースよりも短い周回数だからプッシュしやすいソフト側のタイヤを選び、一刻も早くポジションを上げるために序盤から攻めることになる。25周に起こりうるレースの様々な展開が、その12周に凝縮されるのは考えられることだ。しかし、ライダーの安全という観点からすれば、少なくともポルトガルGPのスプリントレースにはやや疑問を感じるところがあった。

 この点ではっきりと声を上げていたのはファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)だった。11番手からスタートしたクアルタラロは、1周目に13コーナーで転倒したジョアン・ミル(レプソル・ホンダ・チーム)と接触し、その影響で最後尾に後退した。クアルタラロは土曜日のスプリントレース後、囲み取材でこう語っている。

「(スプリントレースは)全然好きじゃない。この先、大きなアクシデントが起こるかもしれない。混乱状態だ」

「最終ラップの接触なら問題ないんだ。僕とアレックス(・マルケス)は3、4回当たったけど、それがレースだ。でも、1周目はクレイジーになっている。ライダーには当たり前のことだけど、でも僕たちが乗っているのはバイクで、コントロールできない動きをすることもあるんだ」

 2周目の5コーナーでスリップダウンを喫し、アウト側にいたエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ・レノボ・チーム)を巻き込んでクラッシュしたルカ・マリーニ(ムーニーVR46レーシングチーム)はスプリントレースについてこう語る。

「パニック状態ではないけど、少し勢いがいい感じだ。みんなレース中に僕やほかのライダーをオーバーテイクしようとしていた。スタートはちょっと危険だ。でも今年はこの新しいフォーマットのレースを戦わないといけない。今後はみんな、もっとスマートにスプリントレースを行っていくと思う」

「ナーバスに感じていた。初めてのことだからね」と、メンタル面について語ったのは優勝したバニャイア。バニャイアは初のスプリントレースゆえに、テストのときよりも攻めてはいなかった、という。

「今日はこのレースに適応し、このレースを理解することが重要だったからだ。それにグリップも低かった。だからすべてを知るのは難しかった。今日は……、今朝と比べてコンディションがかなり違っていた。だからレースで適応する必要があったんだ」

 同じくナーバスになっていたと、メンタル面に言及していたのは2位のホルヘ・マルティン(プリーマ・プラマック・レーシング)だ。

「初めてのことだから、みんな少しナーバスになっていたと思う。僕もね。レース前はいつもよりナーバスだった。みんなたぶん、早くポジションを上げたかったんだと思う。でも、8、9位でも1、2ポイントを獲得するだけ、というのを考えなければならない。クラッシュするリスクは必要ない。でも、レースのたびにリラックスしていくと思う」

 また、アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング)も「かなり緊張感があった」と語る。

「僕の前で、数人がクラッシュしたんだ。クレイジーだよ。アレックス・マルケスはマーベリックにヒットした。わからないけど、僕もバスティアニーニのどこかに当たりそうになった。みんな限界すれすれで走っていて、クレイジーだった。僕はダッシュボードのラップタイムもサインボードも見られなかった。ミスすれば、みんながオーバーテイクしていくからね。前のライダーがミスをすれば、オーバーテイクしていく。だから、かなり緊張感があったよ。この状況に少し慣れる必要があるのかもしれないけど……」

 アレックス・リンス(LCRホンダ・カストロール)も「僕としては、スプリントレースは決勝レースよりもアグレッシブだったと思う。でも(スプリントレースは)これが初めてで、みんながとてもエキサイトしていたようなものだった」と述べている。

 少し違った方向性からコメントしたのは3位のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)で、土曜日のスプリントレース後の会見のなかで「短いレースはこういうものだ。別のサーキットでどうなのかということなんだ。ここでは事前にテストをして、みんなが完ぺきな状態だったから、みんな近いペースだった」と語った。

 クアルタラロのようにはっきりと安全面に問題を抱くライダーもいれば、今回は初めてのレースだったので緊張感があり、エキサイトしていたので、今後レースを重ねるごとに慣れていくのではないか、という意見もあった。マルケスのように、テストを行っていない他のサーキットではどうなるのかはまだわからない、と言うライダーもいる。

 こうしたコメントを踏まえてもやはり思い至るのは、例えスプリントレースがレースとしての興奮を端的に伝えられるものだとしても、そのためにライダーの安全を犠牲にすることがあってはならない、ということだ。少なくとも今回のスプリントレースでは4人のライダーが転倒し、そのうちのひとりとなったバスティアニーニは右の肩甲骨を骨折してアルゼンチンGPを欠場する。ただ、まだ1度目のスプリントレースを終えたばかりということも事実だ。今後のスプリントレースの動向を見守りたい。

初のスプリントレースは1周目から12周目まで、目の離せない展開が続いた
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