第2戦は“筋書きのないドラマ”。勝利のKTM、失速のアプリリア/MotoGPの御意見番に聞くアルゼンチンGP
3月31日~4月2日、2023年MotoGP第2戦アルゼンチンGPが行われました。土曜日のスプリントレースではKTMのブラッド・ビンダーが活躍したり、ドゥカティのフランセスコ・バニャイアが失速するなか、ドゥカティサテライトが活躍する場面も見られ、開幕戦とは違った展開になりました。日曜日の雨の決勝ではアプリリアが苦戦していました。
そんな2023年のMotoGPについて、70年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム第2回目です。
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今回は開幕戦と違って比較的落ちついたスタートでしたね
そうそう、開幕戦と違ってアルゼンチンは事前のテストとか無いし、年一回しか走らないサーキットだから、みんな慎重にスタートした感じで今回は安心して見ていられる……と思ったら天候不順という伏兵がいて、難しい週末になってしまったのはちょっと残念かな。
ま、そのおかげで予測不能の目まぐるしい展開があって、結果的にレース自体はとてもおもしろかった。まさに「レースは筋書きのないドラマ」を地で行った感じだね。
じゃ、安全性の問題はひとまず先送りですか?
いやいや、そういう訳にもいかないでしょ。今回もスプリントでジョアン・ミルがクラッシュして本戦欠場しているし、開幕2戦目でグリッドが5つ空席とか非常事態であることは間違いない。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」じゃなくて議論はどんどん進めるべきだと思うよ。
実はあれから(元)エンジニアの視点で何か提案できないか考えていて、少し考えがまとまってきたところなんだよね。キーワードは「ドローン、画像処理、高精度GPS、AI」の4つで、近いうちにこのコラムで公開できたら良いなと思っている。
ところでスプリントレースのビンダー選手には驚きましたね
KTMはジャック・ミラーも含めて、初日から開幕戦の勢いがなかったしウエットの予選でも下位に沈んでいたから、あの位置(15番グリッド)からトップを奪うなんて誰も想像していなかったと思う、おそらく本人もね(笑) 1コーナーの侵入までに相当ポジションを上げたことは確かだけど、イン側のあの位置は集団に飲み込まれて失速するケースが多い。今回は全員が序盤でのリスク回避の意識が高くて、慎重に走っていたところを彼に付け込まれたって感じかな、言い方悪いけど(笑)
ま、序盤にトップに立った後も強いペースがあったのは確かだけど、ほかのライダーとの差はわずかなんだよね。こういうのがスプリントの醍醐味というか怖さなのかな。でも本戦では2度目の奇跡が起きず最下位とか、ひとつのイベントで優勝と最下位を経験したのは、彼にとって一生忘れることの出来ない記憶になるだろうね。
初日のアプリリアの強さが持続しませんでしたね、何が原因でしょう?
アレイシ・エスパルガロは昨年ここで優勝しているし、マーベリック・ビニャーレスは開幕戦の勢いがあるしで凄いことになってきたなと思ったけど、ウエットになったとたんに元気がなくなってしまったね。ライダーの得手不得手という要素はあるにしろ昨年はずっとドライだったし、その前はコロナの関係でここのレースが無いしで、シャシーもエンジンもウエットセッティングが一発勝負だった可能性が高いね。データの蓄積が無いので致し方ない部分ではあるけれど、こういう場面はマシンとライダーの基本的な適応能力の差が出てくるのかな。
その点ではドゥカティ陣営はおしなべて雨でも強かったね。古い話で恐縮だけど、2004年の開幕戦で劇的な勝利を飾ったバレンティーノ・ロッシが次のへレスは土砂降りのレースで、トップから1分近く遅れて4位キープがやっとという有り様だった。
聞くところによると、雨用のエンジンマップが用意されてなかった、というかそもそもそういう概念が無かったらしい、本当かどうか知らんけど(笑)
ところでベゼッチ選手の優勝って予想していました?
失礼ながらまったくの想定外。でも開幕戦のスプリントレースはリタイアだったけど本戦では3位。今回のスプリントではビンダーの劇的な勝利で目立たなかったけど、しっかり2位に入っていたし、グリッド2番手と好位置につけていたから間違いなく優勝候補に挙げるべき存在だったね。Moto2時代もそんなに際立った結果を残しているわけではないし、ルーキーイヤーの昨年はアッセンでの2位が最高位だし、ちょっと印象が地味というか、そんなにイケメンでもないので僕はノーマーク(笑)
ていうか、現役時代から有能な若手ライダーを見抜くロッシの眼力はたいしたものだったけど、VRアカデミーの選手同士でのチャンピオン争いとか凄い事になってきたね。ま、現役時代は有能な若手ライダーを潰すことしか考えてなかったけど、今は育成に力を入れて結果を出しているのは皮肉なものだね。
VRアカデミーといえばモルビデリ選手もそうですよね
僕的には、今回のレースの一番の見どころはフランキー(フランコ・モルビデリ選手の愛称)の復活と言えるかな。2020年にランキング2位と素晴らしい結果を残した後は、怪我の影響なのかさっぱり影が薄くなっていたから、この復活劇はマジで嬉しいね。
ファビオ・クアルタラロの活躍とは対照的な結果が続いていたから、精神的にはきつかっただろうし、だからこそ支えてきたスタッフも嬉しいだろうね。とは言っても、チャンピオン争いが期待されているクアルタラロが、逆に絶不調に陥っているのでそちらの方もなんとかしないとね。
確かにエンジン性能は向上して、トップスピードも他車と遜色ないレベルになってきたようだけど、アグレッシブさも増しているはずなので彼のライディングスタイルに合わないって事も考えられる。幸いなことに今回他車と互角に走れているフランキーのデータと比較して、どこでタイムをロスしていて、そこで何が起きているのか、何を感じているのかを突き合せていくと答えは見つかると信じている。
「エンジニアのみなさん、ここががんばりどころですぜ!!」って