モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。
今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第3回目、ホンダ・シビック タイプR編をお届けする。
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『タイプR』は、かつてローカルサーキットの主役だった。それも当然。スポーツカーとレーシングカーの中間というのが、そのコンセプトだったからだ。歴代モデルは軽量化とエンジンのファインチューン、そしてレーシーなアイテムで飾られた。
現行型はシビックとしては10代目、シビックタイプRとして5代目にあたる。今回はベースモデルと同時に開発が進められたため、エボリューションモデルというより、スペシャルエディションと表現するのが適当だろう。ゆえにチューニングカー感はなく、完成度が高い。
320psを発生するK20Cは、ホンダのエンジン屋としてのプライドを感じさせる。2.0リットルターボは数多くあるが、ほとんどがダウンサイジング指向であり、運転を楽しめるものではない。
しかし、K20Cはアクセルペダルの動きに忠実に応えようとしてくれる。NAのタイプRエンジンのようなソリッド感はないが、それでも他メーカーとは比較にならない。とくに、シャープな回転落ちや、低回転域でのダイレクト感はターボとは思えないほどで、6速MTの操作も楽しくなる。
高回転域への伸びも、ダウンサイジングターボとはまるで違ったものだ。ターボラグは、ベースモデルの1.5リットルターボのほうがむしろ大きい。NAエンジンの良さとは結局、優れたリニア感とレスポンスが生む自在感によるものであり、K20Cはそれを必死に“再現”したに違いない。
K20Cよりも“NAらしさ”が欠落したNAのスポーツエンジンは少なくないと言える。
また、サスペンションのセットアップは、3代目シビックRのFD2を知る人なら驚愕するほど快適なレベルに仕上がっている。可変ダンパーを組み合わせたことも大きいだろうが、ここは2代目のEP3以来の英国製タイプRの伝統が活かされている。
ドライブモードは、スポーツが基本で、コンフォートと+Rに切り換えることができる。コンフォートは初期のダンピングが不足しており、いつまでもピッチングが止まらないため、逆に快適性が低下する。一方の+Rはサーキット向けのキャラクターだが、良路であれば問題なく使用できる出来だ。