オートスポーツweb試乗企画第9弾は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)スポーツカーのシボレー・コルベットを取り上げる。先ごろ、アメリカで発表された8代目モデルは、MR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)へと駆動レイアウトが変更され、ボディもシャシーも全面刷新される。
そのため、現行の7代目が“FRコルベット”の最終版となる。地面を這うようなプロポーション、左ハンドル仕様のみの設定など、見た目も仕様も“一見さんお断り”という印象だが、クルマに精通する好事家たちからは「FRのコルベットほど、バランスの良いスポーツカーはない」と言わしめている。そんな“通”を唸らせるコルベットの実力と魅力を掘り下げていこう。
■レースで培ったノウハウを反映したアメリカンスポーツ
シボレー・コルベットはGM(ゼネラルモーターズ)が『アメリカ独自のスポーツカーをつくる』をコンセプトに開発したスポーツカーで、1953年に初代モデル(C1)が登場した。以降、2014年に登場した現行の7代目に至るまで、コルベットは数々のモータースポーツシーンで活躍している。
7代目コルベットは、クーペとコンバーチブルのふたつのボディ形状がラインアップされている。グレードは『Z06』と『グランスポーツ』のふたつで、トラスミッションは、それぞれに6速MTと8速ATが用意されている。
『Z06』は、レーシングカーである『C7.R』と同時開発されたモデル。エンジンは6.2リッターV型8気筒OHVスーパーチャージャーを搭載している。これは耐久レースで鍛え抜いた直噴システムやドライサンプオイルシステムなどのテクノロジーが導入されたエンジンで、最高出力659ps、最大トルク89.9kgmを叩き出す驚異的なパワーユニットだ。
対して、『グランスポーツ』は“公道からサーキットまでを席巻するピュアスポーツ”を掲げ、軽量シャシーとパワフルなエンジンが融合したモデル。『グランスポーツ』に搭載されるエンジンは『Z06』と同じ6.2リッターV型8気筒ながら、こちらは自然吸気となり、最高出力466ps、最大トルク64.2kgmを発生する。
今回はサーキットから公道までをターゲットにしている『グランスポーツクーペ』の8速ATをインプレッションしていこう。
■極められたコルベットの“低さ”と“パワフルさ”を味わう
コルベットのボディサイズは全長4510mm、全幅1880mm、全高1230mm。横幅が広く、背が低いため、クルマ全体を路面にギュッと押し付けたような印象を抱く独特のスタイリングだ。エンジンはフロントミッドに搭載され、FRスポーツカーのなかでも特に重心が低い設計となっている。
見た目からは室内は狭いだろうと想像しがちだが、実際に乗り込むと、運転席と助手席との距離が遠いこともあり、窮屈さは感じない。しかし、その低過ぎるスタイリングゆえ、着座位置が低く、これまで試乗してきたクルマと比べると前方視界も良くない。また、左右のピラーも太く立派で、前後左右から圧迫されているような感覚を受けるかもしれない。
とにかく“低い”ため、乗り込む際もアクロバットな姿勢をとることになり、そこも苦労するポイントだ。左ハンドル仕様なので、特に初めて乗り込んだ際の違和感は大きい。「本当に運転できるのだろうか」とハラハラするが、これは徐々にワクワクへと変わっていった。
その要素のひとつが、V8エンジンのサウンドだ。エンジンに火を入れた瞬間に奏でられる高音、それに続く”ドドドドドッ”という重低音まで、コルベットのエンジン音は迫力満点。音色を聞いているだけで、パワフルなマシンに乗っていることを実感でき、嫌が応でもテンションが上がる。
そんなモンスター級のエンジンを搭載するコルベットだが、走り出しはとてもスムーズで滑らかだった。低重心のおかげで走りの安定感も抜群だ。足回りの硬さも程よく、編集部員が乗った限りでは、長距離のドライブでも苦にはならない。
高速道路に入ってアクセルを踏み込むと、力強いトルクでぐんぐんと加速していく。その加速は慣れないうちだと首がのけぞってしまうほど驚異的なもの。一瞬にして法定速度まで到達する加速フィールはスポーツカー好きでなくとも興奮を覚えるだろう。
また、コルベットは“曲がる”ことが得意なスポーツカーだ。コーナリングもクイックで自分がクルマと一体になったように操ることができるため、運転がうまくなったような気分にひたれる。
巨大なボディや低さ、パワフルさに最初はおっかなびっくりだったが、コントロールのしやすさから、乗れば乗るほど楽しさが増していく。コルベットから速く走るためのノウハウを伝授してもらっている、そんな感覚だった。