話題の新車や最新技術を試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けしてくれるのはクルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。
ニッサン・スカイライン編に続く第2回は2019年11月に登場したコンパクトSUV、『ダイハツ・ロッキー』『トヨタ・ライズ』を取り上げます。最大の注目は、新生代プラットフォーム“DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”を採用したことで、全長4m以下のコンパクトサイズながら、クラストップレベルの室内空間を確保していること。空間使いのマジックを魅せるロッキーに迫ります。
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■トヨタとダイハツのコンパクトカーづくりの変革
ロッキー/ライズは顔のデザインだけを変えてダイハツとトヨタの両方で販売されるが、クルマそのものを開発・生産するのはダイハツだ。トヨタ名義の小型車をダイハツが供給する商売は以前からおなじみで、たとえばダイハツ・ブーンとトヨタ・パッソ、あるいはダイハツ・トールとトヨタ・ルーミー/タンク(そしてスバル・ジャスティ)も同じ構図である。
ロッキー/ライズは軽自動車のタントに続く、2例目の“DNGA商品”という。DNGAというネーミング自体、ダイハツの親会社であるトヨタが標榜するTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)をもじったものだ。
DNGAの具体的な内容はTNGAとは別物だが、「クルマの大変革期に向けて、基本ハードウェアだけでなく、組織、商品企画プロセス、開発手法、購買活動など、商品づくりにまつわるすべてを見直す」という大意は、DNGAとTNGAで酷似する。
DNGAはダイハツにとどまらず、トヨタグループ全体で大きな意味をもつ。トヨタは現在、製品群ごとに社内分社化したカンパニー制を敷く。
そのひとつである“新興国小型車カンパニー”は、トヨタとダイハツが一体となった組織であり、純トヨタで新型ヤリスを手がける“トヨタ・コンパクトカーカンパニー”とは別である。新興国小型車カンパニーの技術開発は事実上ダイハツが主導だから、DNGAはトヨタの新興国戦略そのものでもあるわけだ。
そんなロッキー/ライズは1.0リッターターボエンジン以外、プラットフォームやサスペンションを含む骨格構造、変速機、4WDシステムにいたるまで、それこそ「ネジ以外はすべて新しい」という。このクルマは国内専用だが、そのハードウェア技術は今後グローバルに展開予定だ
■ 小回りが利いて軽快な走り、5ナンバー規格のメリットを活かした設計
ロッキー/ライズの新しさは一般道と高速道路をチョイ乗りしただけでも分かる。クルマ全体の剛性感やしっかりした高速直進性は、旧世代のブーンやトールとは別物だ。
そして、高速道路で100km/h巡行での車内の静粛性も印象的。クルマの静粛性は吸音材や遮音材の物量作戦がもっとも効果的なので、今回のように軽量化と静かさが両立しているのは、いかにも最新技術のDNGAの恩恵っぽい。
このようにロッキー/ライズのハードウェアは、最新のクルマとして普通によくできているが、飛び抜けて優秀か……というとそれほどでもない。これは悪い意味ではなく、このクルマの最大の魅力は、やはり「ありそうでなかった」というちょうどいいツボを突く商品企画だということだ。