話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。
第3回は、2019年秋に日本に上陸したBMWのコンパクトハッチバック、1シリーズを取り上げます。3代目となる新型1シリーズは、受け継がれてきた“BMWの血統”といえる後輪駆動(FR)から、前輪駆動(FF)へと大きく舵を切りました。この大変身から見えてくる『変化』と『進化』について掘り下げていきます。
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1シリーズはBMWブランドでは最小・最安のエントリー商品にして、通算3代目となる最新型が2019年秋に日本上陸したばかり。そんな新型1シリーズは、硬派なマニア筋でちょっと賛否が割れている。というのも、今回の新型が1シリーズとして初めての前輪駆動(と、それベースの四輪駆動)だからだ。
1シリーズも属する通称“Cセグメント”は、世界的に前輪駆動(以下、FF)が基本形である。それにもかかわらず、競合他車の中で、これまで1シリーズだけが2世代=15年間にわたって後輪駆動(以下、FR)だった。いや、1シリーズの前身となった3シリーズコンパクト(初代は1994年発売)の時代まで含めると、このカテゴリーのBMWは約25年間もFRを守ってきた計算になる。
安価なコンパクトカーから普及していったFFに対して、FRは伝統的かつ高級・高性能車のイメージが強い。そんなBMWがついにFFの軍門に下った(?)のだから、高級・高性能であるところがBMWの魅力と信じてきた敬虔なマニア筋は黙っていられないわけだ。
もっとも、新型1シリーズがBMW初のFFというわけではない。BMW初のミニバン/ハイトワゴンである『2シリーズ・グランドツアラー/アクティブツアラー』やコンパクトSUVの『X1』はひと足先にFF(と、それベースの四輪駆動)へと移行している。もっといえば、あのMINIも2001年に発売した2代目以降は、実質的にはBMW製のFFである。
■満を持して自社製品に反映したBMWのFF技術
ただ、昔からBMWを好んできた古典的なマニアにとって、ミニバンやSUVはしょせん傍流(?)の商品だし、MINIは実際はBMW製品であっても、あくまでMINIである。しかし、1シリーズのような全高が低い伝統的スタイルのBMWがFFになると、筆者を含む旧世代の中高年マニアは「またひとつ、佳き時代が終わった」と、さみしくなってしまう。
もっとも、BMWの歴史を細かく振り返ると、彼ら自身はFRに固執していたわけではない。当時の国内外のスクープ情報によると、BMWは遅くとも1990年代前半にはFFの技術開発に着手していたようだ。しかも、それは当時も今も“BMWの代名詞”である3シリーズのFF化を想定した開発だったらしい。
しかし、実際にBMW初のFFが発売されるまでには、そこから最終的に20年以上の歳月を必要としたし、当の3シリーズはいまだにFRである。
BMWは自分たちのFF技術を、まずは買収した別ブランド(=MINI。その前にはローバー75というクルマも存在した)で実験的に世に問い、その次はいよいよBMWだが、BMWでも口うるさいマニアに注目されにくいミニバンやSUVで地ならしをした。つまり「満を持すにもほどがある!?」ほどの段階を踏んでから、今回やっと1シリーズをFF化したのだ。