驚くべき速さと、目を見張る美しさ。スーパースポーツカーは、このふたつの要素を兼ね備えた特別な存在だ。『オートスポーツweb 最新スーパースポーツカー試乗レポート』では、クルマ好きなら誰もが憧れる数々の至高のマシンの中から注目の1台をピックアップして、その走りの印象を伝えていきます。
ハンドルを握るのは、モータージャーナリストの吉田拓生さん。第4回目は、『マクラーレン600LT』を取り上げます。
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■21世紀に語り継がれるロングテールの新章のスタート
マクラーレンにとって“LT”というアルファベットは、特別な意味を持っている。それはポルシェにとっての“RS”であり、BMWにとっての“M”のようなものである。
LTは“ロングテール”を意味している。マクラーレンの長い尻尾、それは熱心なレースファンにしか理解できないマニアックさを秘めている。1997年のル・マン24時間レースに登場したマクラーレンF1-GTR“ロングテール”と呼ばれるロングノーズ・ロングテールを与えられたレーシングカーこそが、LTの源泉だからである。
2011年にスタートを切ったマクラーレンのスーパースポーツカー・プロジェクトにおいて、これまで4台のLTモデルがリリースされている。
2015年の675LTクーペと、そのスパイダー、そして2019年にリリースされた600LTのクーペとスパイダーがそのラインアップだ。
とはいえややこしいのは、現代のLTがあえて主張するほどロングテールではないことだろう。マクラーレンF1では、リヤオーバーハングが500mm近くも延長されていたのだが、675LTでは33mm、600LTでは74mm延長されているに過ぎないのだ。
当然のようにその事実を把握しているマクラーレンサイドは、現代のLTに『軽量、ハイパワーでサーキット走行に適したモデル』という注釈をつけているのである。
600LTはマクラーレンのスポーツ・シリーズの570Sクーペをベースとして完成している。パワーは570Sクーペと比べて、プラス30psの600psの大台に到達している。
さらに、600LTは専用チューニングのサスペンションによって、ピレリPゼロ トロフェオRタイヤのハイグリップに対応しているのだ。
カーボンファイバー製のバケットシートで味わう600LTは、まさにスペックどおりの高性能を体感させてくれるマシンだった。コーナリング時のみならず直進している時ですら、軽さやエンジンパワーより強烈なタイヤのグリップの方が強く感じられる。
ダウンフォースの掛かり方も、車体全体の感度の高さもベースとなった570Sとは明らかに別物といえる。少しオーバーペースでコーナーに飛び込んでも、拍子抜けするほどフラットなコーナリングが遂行されるだけなのである。
さらに極めつけは、リヤウイングの手前で上方排気されるエキゾースト・システムから青く鋭い炎が吹きあがること。バックミラー越しで見るアフターファイヤーに興奮しないクルマ好きなどいるはずがない。
600LTは、新たな伝説を築きつつあるマクラーレンLTの名に相応しいスーパースポーツカーなのである。
■マクラーレン600LT 諸元
車体 | |
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全長×全幅×全高 | 4604mm×1930mm×1194mm |
ホイールベース | 2670mm |
車両重量 | 1356kg |
駆動方式 | RWD |
トランスミッション | 7速DCT |
サスペンション形式 前/後 | ダブルウイッシュボーン |
ブレーキ 前/後 | ベンチレーテッドディスク |
タイヤサイズ | F 255/35R19 R 285/35R 20 |
エンジン種類 | V型8気筒DOHCツインターボ |
総排気量 | 3799cc |
最高出力 | 441kW(600ps)/7500rpm |
最大トルク | 620Nm(63.2kgm)/5500ー6500rpm |
最高速度 | 328km/h |
■Profile 吉田拓生 Takuo Yoshida
自動車雑誌の編集部を経て、2005年からフリーのモータージャーナリストとして活動をスタート。自動車、ヨット、英国製品に関する文章を執筆。現代のスポーツカーをはじめ、1970年以前のヒストリックカー、ヴィンテージ、そしてレーシングカーの試乗レポートを得意としている。