万全のコロナ対策のもと、マツダ CX-30価値体験型取材会が開催された。横浜にあるマツダR&Dセンターから長野県奈良井宿までの、高速道路と一般道を組み合わせた約350kmのルートが用意され、長時間/長距離運転することで、マツダ CX-30の価値を発見してもらおうという主旨のイベントだ。
長く接すれば接するほど、SKYACTIV-Xを搭載するCX-30のさまざまな良さが見えてきた。
■激戦区のコンパクトSUVに投じたマツダ期待のニューカマー
マツダのコンパクトクロスオーバー CX-30が好調だ。日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、2020年上半期(1月〜6月)の新車販売台数は、1万5937台(乗用車ブランド第24位)。
24位かよ! と思うかもしれないけれど、クロスオーバー/SUVにカテゴリーを絞ると、トヨタのRAV4やC-HR、ホンダ・ヴェゼル、ダイハツ・ロッキーにつぐ、5番目の販売台数を誇る。
マツダの車種ラインアップのなかでは2020年上半期で一番売れている。ニューネームプレート(新規車種)ということもあり、認知度とともに今後さらに伸びていくと予想され、これからマツダの屋台骨となる主力車種への期待度も高い。
そのマツダ CX-30人気の理由は、同社の代名詞でもある“魂動デザイン”による、流線形を基調としたデザイン性の高さもさることながら、“ちょうど良いサイズ感”が市場のニーズにミートしたことだ。
いや、マツダの開発陣が徹底的に実用性にこだわってミートさせたといったほうが正しいだろうか。
CX-30の車体寸法は、全長4395mm、全幅1795mm、全高1540mm。同社が国内販売するクロスオーバー/SUVは、CX-8(全長4900mm)、CX-5(全長4545mm)、CX-3(全長4275mm)がラインアップしており、CX-5とCX-3の間に位置するサイズとなる。
全長4.4mを超えないのはヨーロッパの街中でスマートに縦列駐車ができることを、全高の1540mmは日本の立体駐車場を利用できる想定の高さだ。
そして、全幅は世界のどの国の交通環境においても、持て余さないサイズとして決められている。このスリーサイズは1mmも超えることは許されなかったという。
マツダ CX-30の開発コンセプトは、『家族に向けてジャストサイズなクルマ』であり、ターゲットカスタマーとして、カップルやヤングファミリー層を想定している。
そこに対しては狙いどおりミートさせながら、同社のCX-8やCX-5といった大きいサイズ、さらには輸入車から乗り替えを検討する、子育てを終えたシニア層にも受け入れられているそうだ。
都市部の道幅が狭く、渋滞が多い日本の交通環境でも、誰もが無理なく操作しやすいサイズに仕上げながら、大人4名乗車でもしっかり座れて、430リッターの荷室容積を確保した、巧みなパッケージングが評価を得たカタチだろう。
まさにジャストサイズSUVと言える。
■ピストンの圧縮によって自己着火させる世界初のガソリンエンジン『SKYACTIV-X』
マツダ CX-30は、2.0リッターガソリンエンジン『SKYACTIV-G 2.0』、ディーゼルエンジン『SKYACTIV-D 1.8』、新世代ガソリンエンジン『SKYACTIV-X 2.0』の3つのパワートレインを設定する。
G2.0が261万5000円、D1.8が288万7500円、X2.0が329万4500円(いずれも消費税込。PROACTIVEモデルでの比較)の価格順となる。
今回、試乗したのはモデルの最上級となる、世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)に成功し、話題を呼んだSKYACTIV-Xエンジンを搭載したモデル(2WD)。
ひと言でいえば、ガソリンとディーゼルの両方の長所を兼ね備えたような新世代エンジンだ。
なぜ、マツダがこのエンジンの開発する必要があったのか? それは年々厳しさを増していく排ガス/燃費規制への対応だ。
自動車メーカーとして避けて通れない条件で、いまグローバルで急速に増えているハイブリッド車(HEV)や電気自動車(BEV)はそのひとつの手段に過ぎない。
マツダはハナから電気に頼るのではなく、原点に立ち返ってパワートレインのあるべき姿、エンジンの効率を高めることで、クリーン&燃費改善を目指した。
将来的に電気デバイスを使ったとしても、熱効率の高いエンジンをベースにできれば、依存する度合いは小さくできるメリット(例えば、大量のバッテリーを搭載せずコストを抑えるなど)があると考えているからだ。
ガソリンエンジンの熱効率を追求しようとすると、圧縮比を上げるか、比熱比を上げるかという選択肢になる(オットーサイクルの理論熱効率の式を見ればわかる)。
マツダはファーストステップとして、ガソリンエンジンSKYACTIV-Gで、2011年に14.0という高圧縮比化を実現している。
SKYACTIV-Xは、そのSKYACTIV-Gに対して、さらなる高圧縮比化(国内仕様は15.0、欧州仕様は16.3)したことに加えて、比熱比の向上に取り組んだマツダ流のセカンドステップとなる。
マツダに言わせると「高圧縮比化の取り組みは比熱比を高めるための前段階」ということだが。
では、比熱比を上げるには、どうすればよいか?
その手段が「リーン(希薄)燃焼させること」である。燃料と空気が過不足なく燃焼する質量の比は14.7:1で、理論空燃比(ストイキオメトリー)という言葉を聞いたことがあるだろう。
これに対して空気を2倍以上に増やし(NOx排出量は大幅に抑制できる)混合気を薄く(リーン)することで比熱比は上がる。すなわち熱効率が向上する。
ただし、混合気をリーンにしていくと、着火しにくくなる課題がある。この課題をクリアするため、これまで完全圧縮着火のHCCI(均質予混合圧縮着火)がさまざまな自動車メーカーで研究されてきたが、この手法が成立するのは筒内温度範囲が限定的ということもあり、圧縮比で温度と圧力を制御するのは非常に困難なため、まだ量産化されていない。
技術的に高いこのハードルを、マツダのSKYACTIV-Xは、スパークプラグによる火花点火を圧縮着火のトリガー(SPCCI=火花点火制御圧縮着火)にすることでコントロールすることに成功。
高回転域ではSPCCIの制御領域から外れるが、通常のガソリンエンジンの火花点火(SI)運転との切り替えもシームレスに移行できるようにした。
余談だが、燃焼室内の混合気が理論空燃比より「リーン(薄い)」状態でも素早く燃焼させる点では、F1などで採用されているプレチャンバー方式も目的は同じである。
このSPCCIの成功裏には、いくつかのキーテクノロジーがあるが、そのなかでカギを握るのが、各気筒に搭載した筒内圧センサーだ。
高度な制御管理を行なうために、燃焼状態をモニターしながら、意図と結果のずれをリアルタイムに補正することで、自己着火を精度高く制御している。
もちろん、機械的容積比も厳密に管理している。容積が1cc違えば、制御が台無しになるからだ。