モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太がニッサン新型セレナを初試乗。第2世代e-POWERやプロパイロット2.0 などの新技術はもちろん、より広く快適に、そして使いやすくなった居住空間など、魅力は盛りだくさん。先代から飛躍的に進化した、新型セレナの実力に迫る。
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■新型のコンセプトは「家族との遠出を最大限に楽しむミニバン」
新型車を開発する際に前型車の弱点解消を狙うのは、レーシングカーも量産車も同じである。日産自動車は新しい『セレナ』を開発する際、ちょっと技術に振りすぎたと反省した。5代目となる先代がデビューしたのは2016年。当初から、高速道路の単一車線でアクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてをシステムが自動で制御し、ドライバーの負担を軽減するプロパイロットの搭載を『セレナ』の大きな特徴としてアピール。2018年にはe-POWERをラインアップに追加し、100%電動駆動のハイブリッドシステムによる静かでなめらかな走りをPRした。
こうした革新的な技術の陰に隠れ、『セレナ』が生来備える“家族で楽しめる”イメージが失われてしまった。ニッサンの開発陣はそう反省した。一方で、家族の姿が変わりつつあることを感じ取ってもいた。従来はママが家族の中心だったが、共働きの家族が加速度的に増え、パパが積極的に家事に参加するのが当たり前になった。ママ中心から、ママとパパが平等な関係になっているのが昨今の家族の現状だと、調査で浮かび上がった。
それがクルマとの付き合いにどんな影響を与えるかというと、ママもパパも、そして子供たちも習い事などに忙しいので、「限られた家族時間を思い切り楽しみたい」というニーズが生まれる。そこで新型セレナを開発するにあたっては、「家族との遠出を最大限楽しむためのミニバン」というコンセプトを掲げた。
コンセプトが固まれば、次に考えるべきはコンセプトを実現する手段だ。これについては「BIG(ビッグ)」「EASY(イージー)」「FUN(ファン)」の3つのキーワードに集約した。BIGの具現化は例えば、広々とした室内空間を確保することだ。先代はe-POWERを選ぶと7人乗りしか選ぶことができなかったが、新型ではガソリン仕様と同様、2列目に3座ある8人乗りも選べるようにした。ユーザーからの要望に応えた格好である。
EASYとFUNを同時に満足させるのが、プロパイロット2.0の設定だ。高速道路の運転で条件がそろえば、ステアリングから手を離すハンズオフが可能になる。また、プロパイロットパーキング(メモリー機能付)やプロパイロットリモートパーキングも設定した。前者は自宅の駐車場を登録しておくと、ボタン操作ひとつで自動駐車を行ってくれる機能。後者は車外からのボタン操作でクルマを前後に動かす機能だ。ショッピングモールの駐車場に止めて買い物から戻った際、ちょっとクルマを前に出すときに便利だ。e-POWER仕様にAC100V電源が2口搭載されたのも朗報である。
FUNを具現化する技術としてはさらに、車内で会話が楽しめるようe-POWERの作動音を静かにした。また、ドライバーは疲れにくく、乗員は酔いにくいクルマにするよう、シートの設計やサスペンションのチューニングなどに力を入れた。