モータースポーツの裾野を広げる役割を持った、誰もが楽しめるワンメイクレース。今年で9シーズン目を迎えたTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race(86/BRZレース)には、そんな表の顔がある。
けれどプロドライバーがしのぎを削る“プロフェッショナルシリーズ”に限っていえば、それは当てはまらない。今年も全日本スーパーフォーミュラ選手権とスーパーGT GT500に参戦する坪井翔、宮田莉朋、中山雄一をはじめ、川合孝汰、菅波冬悟などGT300クラスを戦う数多くのドライバー、さらにはトップカテゴリーで輝かしい戦績を残してきた服部尚貴や脇阪寿一らベテラン勢の姿もある。
そして名だたるドライバーをサポートする陣営も経験豊富なレースファクトリーばかり。このクラスでは緩さなど微塵もない、ガチなバトルが繰り広げられているのだ。
そこへレカロレーシングチームが参戦してから、今年で3年。チームマネージャー前口光宏氏は「私たちのチームは必ず強くなると信じている。けれど、たやすく“勝つ”とは言えない」と、レースの厳しさを肌で感じている。
物量作戦、人海戦術を用いたとしても、そう簡単には勝てない。むしろ、さまざまな制約のなかで頭を使いながら答えを出す。そんな戦い方にチャレンジしている。
レカロジャパンでマーケティングやブランド戦略を統括する前口氏にとって、モータースポーツは近いようで遠い存在でもあった。そこに足を踏み入れたきっかけは、画期的なフルバケットシートとして大人気の『プロレーサーRMS』の開発だ。
脇阪寿一などレーシングドライバーとともにテストを繰り返す日々に身を置き、彼らの発するひと言ひと言に耳を傾けた。そして、貴重なアドバイスを正確に捉え、理解し、商品に反映させるには、自身がモータースポーツの世界に飛び込む必要があると感じたのだ。
そうして2019年にチームを結成し、86/BRZレースに参戦。昨年は初勝利を挙げ戦績は右肩上がりだが、今年はチーム体制を一新した。
レースファクトリーに運営を任せず、前口氏がすべてを俯瞰するなかで、メカニックやマネージングスタッフを統括する。プロフェッショナルシリーズを知る者にとって、この手法は異色と映る。いわばゼロからのスタートだから、ひとつひとつ課題を克服し、前へ進むつもりだ。
ドライバーはチーム結成以来苦楽をともにしてきた佐々木孝太と、昨年加入した井口卓人。さらに今年は、ビッグニュースがある。スポーツランドSUGOで開催されるラウンド4/5から小暮卓史が加わるのだ。
GT500でシリーズチャンピオンを獲得し、フォーミュラニッポン/スーパーフォーミュラでも活躍した小暮が参戦することで起こる化学反応にも注目したい。
そして3月20~21日、迎えたツインリンクもてぎの開幕戦。まず佐々木が予選4番手でチームを沸かせると、悪天候となった翌日の決勝は、ウエットで有利なブリヂストンユーザーの井口が状況をしっかり見極めたクールな走りで5位という鮮やかな結果を残した。
「レースの世界で学ばなければいけないことは山ほどある。いまは、ひたすら勝つというのはどういうことか、その答えを探し続けている。レースの世界は結果がすべて。勝たなければ意味がない。勝ちたい」
「でも周囲のチームを見ると簡単に口にして良いものではないんじゃないかとさえ思う。勝つために何をすべきか、何ができるのか、頭のなかがレースのことでいっぱいになるほど悩み続けなければいけないと思う」
「この世界では当たり前のことも我々にとってそうでないものもある。他のチームの真似をしても決して強くはならない。チーム全員の力を借りて、知恵を絞り、気持ちをひとつにして、最終的にはドライバーのためにどんな準備ができるか」
「開幕戦では、ふたりのドライバーが予選、決勝それぞれで素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。チームの誰もが自分の仕事をしっかりこなしている。我々は必ず強くなる。このチームで、ドライバーとメカニックとともに勝ちたい。3年目にしてようやく挑戦したいと思う」と前口氏。そんな強い思いを共有し、レカロレーシングチームは86/BRZレースを戦う。
■Rd.01 Race Result
No.906 RECARO BRZ DL K/佐々木孝太
決勝レース15位/予選4番手(2分16秒746)
予選前日の練習走行では佐々木、井口とも思うようにタイムが伸びない。佐々木は担当メカニックと時間をかけて対策を練った。そして深夜にまでおよんだミーティングの結論は、タイヤの内圧を上げること。しかも一気にコンマ2も高めるという作戦に出る。これが翌日の予選で4番手という素晴らしい結果をもたらした。
「コースインして1コーナーの進入でステアリングを切ったとき、“あっ、違う”と自分でも驚きました。しっかりグリップしてフィールもいい。これはいけると思いましたね」と、佐々木はしてやったりの様子。
No.988 RECARO BRZ BS T/井口卓人
決勝レース5位/予選15番手(2分17秒177)
一方、予選15番手の井口は「いいタイムが出せたと手応えがあったのに、順位を見て“あれっ?”という感じ。みんな速いですね」と納得がいかない。井口の言葉どおり、予選はたった1秒差のなかに22人がひしめき合う大接戦。そのうち11番手までがコースレコードだ。
そしてポールを獲得した佐々木雅弘の2分16秒678というトップタイムは、昨年のそれより1秒近くも速い。レギュレーションでがっちり縛られたナンバー付き車両によるワンメイクレースの世界で、各チームがいかにマシンのパフォーマンスを高めるため情熱とノウハウを注ぎ込んでいるのか。タイムにも86/BRZレースのスゴさが垣間見える。