4月26〜27日に富士スピードウェイで開催されたフォーミュラ・ドリフト・ジャパン(FDJ)に、全日本スーパーフォーミュラ選手権とスーパーGT・GT500クラスを主戦場とする大湯都史樹が初参戦。足もとにヨコハマの『ADVAN NEOVA AD09』を装着してデビュー戦ながらベスト16に進出し、逸材ぶりを見せつけた。

■緊張の予選1本目「置きに行く走り方が分からない(笑)」

 フォーミュラ・ドリフトは2004年にアメリカで生まれ、日本には2014年に上陸したドリフト競技だ。土曜日に単走方式の予選、日曜日に上位車両によるタンデムバトル(2台追走)方式の決勝というスケジュールで争われる。単走では審査員が3つの項目を厳格に採点。コースレイアウトに準じたクルマの走行軌跡『ライン』が35点満点、マシンの角度『アングル』が35点満点、ドリフトの迫力『スタイル』が30点満点という内訳の100点満点だ。2回の走行機会のうち点数の高い方で予選順位が決定し、上位32名が日曜の追走トーナメントへと進出する。富士スピードウェイでは、100Rからアドバンコーナー出口にかけて4つのゾーンが設定された。

 FDJはライセンス制を導入しており、上からFDJ、FDJ2、FDJ3という3つのランクに分けられている。ドリフト競技初参戦ながら、大湯がエントリーするのはトップランクのFDJ。レーシングドライバーとしての実績で“飛び級”参戦となった。

「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
前週のスーパーフォーミュラ参戦時から、FDJデビューに対して緊張していた大湯。富士では木曜日から、練習走行に励んでいた

 カートから4輪フォーミュラへ、レーシングドライバーの王道を歩んできた大湯は、『いかにタイヤをグリップさせて速く走るか』を追い求め、トップカテゴリーまで上り詰めた。その大湯がドリフトを始めたキッカケはなんだったのか。

「2年くらい前に、S2000で遊び始めたのが最初ですね。ドリ車(ドリフト仕様車両)じゃないし、もともとスライドコントロールというところは得意としていたので、角度を必要としないドリフトであればそれなりにやれる自信はありました」

 大湯はその後、ドリ車のクレスタを手に入れる。

「去年からドリフト練習機のクレスタで走るようになって。そのうちに『FDJで走れるかも』という話があって、そこからは2〜3カ月に1回のペースですけど練習していました」

 練習機のクレスタは「壊れないこと」を意識した450ps仕様。FDJで駆るのは、TEAM KAZAMA(風間オートサービス)が仕立てた1200馬力仕様のGR86。初めて乗ったのは昨年10月で、この富士大会でも乗るのはまだ4回目だったという。

「タイヤは練習機のクレスタでも使っているNEOVA(AD09)で、すごくグリップが高いしタイヤの温まりもいいので、僕みたいなドリフト初心者でもすぐ走れる感じがあります」

「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
FDJにヨコハマが供給するストリートスポーツタイヤ『ADVAN NEOVA AD09』

 迎えた富士での予選1本目。大湯の走りは68点で、決勝進出ラインの32位から1点差の33位だった。

「『1本目は置きに行ったほうがいいよ』と言われていたので置きに行ったつもりなんですけど、置きに行く走り方が分からない(笑)。緊張もあって、自分の走りがまったくできませんでした」

 大湯の強みはスーパーフォーミュラやGT500で慣れている“スピード感覚”。だが、1本目の大湯にはスピードがなかった。2本目はスピードに乗り解説を担当していた谷口信輝からは「ゾーン2の切り返しが鋭い!」と称賛の声が上がった。79点の走りで24位、見事にTOP32進出を決める。

「走り自体は良かったんですけど、ゾーン3でインクリップにつけなかったのがだいぶ減点されましたよね。予選の自己採点は20点。全然納得できる走りではなかったです」

■初の追走。王者相手に魅せた深いアングルでの“ケツ進入”

 日曜のTOP32タンデムバトル、大湯の対戦相手は、昨年の開幕戦富士大会でカッレ・ロバンペラを破った草場佑介(Team Cusco Racing GR86)。1本目は大湯が後追いだ。大湯は追走の経験がなく、ぶっつけ本番で、しかも難しい後追いからとなった。

「草場選手がすごく良い走りだったから、分からないなりですけどキレイに合わせていけました。でも、草場選手の縦の推進力がすごく速くて、ゾーン3からはついていけませんでしたね」

 2本目は大湯の先行。前日の単走ではアクセル全開+左足ブレーキでコントロールしていたポイントで、サイドブレーキを使う走りに変えた。

「サイドを使ったのは、しっかりとラインを通るため。予選のときよりもかなり良い走りができました。予選なら90点を超えてもおかしくないくらいの走りだったと思います」

 後追いでは草場が優勢だったが、先行では大湯のほうが角度があり、コースもワイドに使ったことが評価され、『ワン・モア・タイム』(再走)のジャッジとなった。

 ワン・モア・タイムの1本目後追い、大湯はゾーン1からピタリと背後につき、最後まで寄せていく。そして大湯が先行の2本目。草場がゾーン2でラインを外し、大湯の勝利が決定した。

「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
日曜の決勝初戦では草場佑介との“GR86”対決を制した

 TOP16の対戦相手は、2020年、2021年、そして2024年のFDJチャンピオンである山下広一(TMS RACING TEAM 5FIVEX BMW E92)。大湯が後追いの1本目、王者相手にしっかりと寄せていく。そして2本目の先行、大湯はスピードを乗せてゾーン2までを通過、ゾーン3に深いドリフトアングルで進入していくと、そこで山下が大湯に接触してスピン。長引いたジャッジは「山下が押した」「大湯の加速が鈍った」と、双方に落ち度があったと裁定されワン・モア・タイムとなった。

 その1本目、大湯は後追い。先に振り始めた大湯が山下に詰まるようなかたちでドリフトが戻ってしまう。それを起因に合わせきることができなかった。

 2本目、先行の大湯は早い振り始めでスピードに乗り、ゾーン2からゾーン3へは“ケツ進入”の深いアングルでこの週末一番のドリフトを魅せる。しかし、山下はその大湯に合わせていき、1本目のアドバンテージもあって大湯は敗退となった。

「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
昨年王者・山下広一とのTOP16で、後追いに挑む大湯。残念ながらここで敗退となった

「負けちゃいましたけど、最後は自分らしい、自分がやりたい走りができました。『悔い無し!』っていう先行でしたね」と大湯は追走を振り返る。

「チャンピオンは引き出しが多いというか、逆に僕は隙だらけなんですけど(笑)、その駆け引きに僕が合わせることができなかった。先行だけで言えば最後は100点に近い95点くらいの満足度がありましたけど、4本を平均したら80点くらい。後追いは、そのときどきの対応力の幅がまだ足りなくて60〜70点くらいですね」

 なお、この後も富士大会は大きく盛り上がり、ファイナル(決勝戦)は“スーパー中学生”として名を馳せ、この春に高校生となったばかりの箕輪大也(CUSCO RACING/GRカローラ)と、大湯のチームメイトでもあるケングシ(レクサスIS500)の対決に。ともにヨコハマタイヤを装着する実力者のふたりはファイナルにふさわしい“距離感ゼロ”の追走2本を見せ、参戦4年目のケングシが悲願の初優勝を遂げた。

「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
“ヨコハマ対決”となった決勝を制したレクサスIS500を駆るケングシ(左)
「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
富士大会で優勝したケングシ(右)はTEAM KAZAMAのチームメイト。こちらもヨコハマを履く。

 大湯は今年、スーパーフォーミュラと重複する岡山大会を除いた残り4イベントでFDJ参戦を予定している。

「自分の持ち味を出せそうなのはSUGOですけど、エビスも鈴鹿ツインも奥伊吹も全部楽しみ。1回くらいトップ8に残れる大会があればいいなと思っています」

 FDJのレベルは高く、ドリフトにおける経験値が圧倒的に少ないことを痛感したという大湯。だが、この2日間の走り込みで、ドリフトの精度もスピードも増し続けていった。大湯のドリフトには伸び代しかない。“ドリフト界の新生”登場に、これからのFDJが沸くのは間違いない。

「僕は隙だらけ(笑)」緊張のFDJデビュー戦で1200馬力を手懐けた大湯都史樹の“伸び代”
FDJの次戦は5月24〜25日、三重県の鈴鹿ツインサーキットで行われる

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