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投稿日: 2023.11.24 13:03

【中野信治のF1分析/第22戦】ラスベガスGP、初開催ゆえの難しさ。タイヤを左右した要素とルクレールの意地


F1 | 【中野信治のF1分析/第22戦】ラスベガスGP、初開催ゆえの難しさ。タイヤを左右した要素とルクレールの意地

 ラスベガス・ストリップ・サーキットを舞台に行われた2023年第22戦ラスベガスGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季18勝目を飾りました。今回は初めてのサーキットの挑む難しさ、決勝でソフトタイヤ、ミディアムタイヤよりも、ハードタイヤが好ペースを刻んでいた要因などについて、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

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 ラスベガスでのF1開催は1981年、1982年以来3度目。ただ、今回のラスベガス・ストリップ・サーキットでは初開催のレースとなりました。予選ではシャルル・ルクレール(フェラーリ)がポールポジションを獲得も、決勝ではフェルスタッペンが引き続き速さ、そして強さを証明しました。

 初開催ということもあり、予選から勢力図に変化があったように見えたかもしれません。舞台となったラスベガス・ストリップ・サーキットが比較的特殊かつ、市街地のストリート・サーキットの開催でどのチームにとっても初めてのコースのため、マシンの持ち込みセットアップを決め打ちにし、サーキット入りしたチームもあったと考えています。3回のフリー走行が予定されていましたが、マンホールのアクシデントでセッションがキャンセルになるなど、チームにとっては予選までにいつも以上に少ない時間の走行となりました。そのため、持ち込みセットアップで当てることができたチーム、外してしまったチームで別れたなと見ています。

 その中でマクラーレンが2台ともQ1敗退、ルイス・ハミルトン(メルセデス)やセルジオ・ペレス(レッドブル)がQ2敗退となるなど、予選では上位チームにも苦戦が見られましたが、これも持ち込みセットアップが少し外れてしまったことが要因のひとつかなと。これも意外性はなく、初めてのサーキットで、参考にしたい過去のデータがチームの手元にはない。そういった状況で挑むと結構起こり得ることだと見ています。

 もうひとつの要因としては、タイヤのデグラデーション(性能劣化)が見えない中、ラスベガス・ストリップ・サーキットはストレートも非常に長いことから、オーバーテイクしやすいサーキットだろうという予測がある中、予選でのポジションに狙いを定めるよりも、決勝でタイヤのデグラデーションに対し優しいクルマを作ること。そして、気温、路面温度がともに低い中でのタイヤの温度管理を含めた、決勝へ向けたシミュレーションに重きを置いていたチームもあったのかなと。

 だからこそ、接触などもありましたが、マクラーレンのオスカー・ピアストリやハミルトンは、決勝の走りに関しては決して悪いようには見えませんでした。予選順位さえ良ければ、もっと楽に上位争いが展開できていたのではないかとも感じます。

 そしてやはり、マンホールの蓋が外れたアクシデントでフリー走行1回目(FP1)が約10分で終わってしまった影響も大きかったでしょう。FP1を走れなかったことで、予選・決勝を前にした走行時間が減り、より決勝へ向けたシミュレーションの重要性が増したのかなと思います。

 また、今回のラスベガスGPはドライバー全員にとっても初走行のサーキットです。正直、F1に参戦するレベルのドライバーになると、「初走行のサーキットだから難しい」といったことはあまりないのかなと。むしろ新鮮で、ワクワクと楽しみながら。それでいて、ウォールに囲まれたストリートコースでクルマを壊さないように、僅かな時間を有効に使うことに集中していたと思います。

 ただ、先述のとおりチーム、そしてエンジニアにとって、初めてのサーキットは大変です。クルマをどう作り上げていくか、持ち込みのセットアップをどういうかたちにするのか。現在は各チームAIを駆使するなど、さまざまなかたちで週末に向けたシミュレーションを展開し、レースウイークのストラテジー作りに取り組んでいます。初開催となる今回のラスベガスはいつもの倍以上に引き出しを増やしておかなければ、何かがあった際に対応しきれない可能性があったと思います。それゆえに、映像に映らない部分でチームにとっては、かなり大変な一戦だったのではないでしょうか。

2023年F1第22戦ラスベガスGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2023年F1第22戦ラスベガスGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 決勝のファイナルラップとなった50周目、ターン14でルクレールが見事なオーバーテイクを見せ、ペレスから2位の座を奪いました。あれは痺れるオーバーテイクでした。ターン14は非常にタイトな左コーナーで、出口の方にはランオフエリアがありません。そのため、ストレートエンドの仕掛けやすいポイントではありますが、ワンミスで相手を巻き込むアクシデントになる可能性もあるコーナーです。

 それに路面のミュー(摩擦係数)があまり高くはありませんので、滑りやすく難しいコースです。それゆえに、見た目以上にリスクの高いオーバーテイクポイントだったと思います。そんな状況で思い切って仕掛けたルクレールには痺れました。ペレスも、まさかファイナルラップのあのターン14でオーバーテイクされるとは思いもしなかったのかなと。油断していた部分もあったと思います。

 事前に仕掛ける素振りは一切見せずペレスを油断させ、タイヤコンディションも難しい状況の中でインに飛び込んだルクレールの意地と技。見ている私たちも「まさか、こう来るとは」となりましたが、ペレスも驚いたでしょう。ミスすればウォールにヒットするであろうリスクの高いブレーキング勝負をファイナルラップに仕掛けてくる、といった状況はベテランのペレスといえど来ないと思ったでしょう。ルクレールの技、実に秀逸でした。

シャルル・ルクレール(フェラーリ)&セルジオ・ペレス(レッドブル)
2023年F1第22戦ラスベガスGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)&セルジオ・ペレス(レッドブル)

 さて、ラスベガスGPの決勝ではソフトタイヤやミディアムタイヤよりも、ハードタイヤの方がハイペースだったシーンもありました。柔らかいタイヤの方が保ちは悪いけど、決勝でもタイム、レースペースは速いというのが通常です。

 今回のラスベガスGPでは、予選からソフトは周回を重ねても好タイムをマークすることができていました。通常、ハードやミディアムよりもデグラデーションが早いソフトですが、気温と路面温度が低い状況下では想定よりもソフト保ちが良かった。ただ、決勝を迎え、50周を走り切る燃料がマシンに積まれると、ソフトのいいところが失われたのかなと。

 路面ミューが低く、またF1のセッション終了後の日中はコースの一部が一般道に戻るという事情もあり、レコードライン上の細かい埃や砂が散って路面が出来上がるまでの時間がかかったり。さらに言えば、主に路面にラバーがのることで起きるトラックエボリューション(路面状況の改善)も思ったよりも見られませんでした。さらに言えば、ソフトはフロントタイヤのグレイニング(タイヤ表面がささくれてしまう状態)がひどいという見立てもあり、多くのドライバーは決勝でソフトを履かなかったのだと思います。

2023年F1第22戦ラスベガスGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2023年F1第22戦ラスベガスGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 一方、ミディアムやハードはタイヤのコンパウンドは固く、一発のグリップやタイヤの温まりに関してはソフトより劣ります。ただ、決勝でのパフォーマンスは安定していました。ピレリはF1に、硬めのC0から柔らかめのC5まで6種類のタイヤを供給しています。そのうち、ラスベガスGPでは、やわらかめの3つのコンパウンドが持ち込まれました。柔らかめのレンジの中でのソフト、ミディアム、ハードなので、比較的使いやすかったという事情もあるでしょう。

 ミディアムタイヤに関しては、ソフト寄りのミディアムですので、こちらも燃料を搭載した状況ではソフトほどではないものの、ペースが落ちるのが早かった。そんな中でハードタイヤは燃料を積んだ状況でも、3種類の中ではタイムも、一貫性の面でも秀でていたのだと感じています。

 だからこそ、スタートでは多くの車両がソフトを履きませんでした。ただ、ソフトタイヤは熱が入りやすく蹴り出しはいいため、最後列から追い上げにかけるストロールと裕毅にとっては悪くない選択だったと思います。裕毅は終盤にコースサイドにマシンを止めることとになりましたが、スタートではソフトの利点も活かし、アクシデントの間隙も抜けて、ストロールとともに大きくポジションを上げていました。

2023年F1第22戦ラスベガスGP オープニングセレモニー
2023年F1第22戦ラスベガスGP オープニングセレモニー

 ラスベガス・ストリップ・サーキットでの初めてのラスベガスGP、現地に行ってみたかったと思うと同時に、「F1も変わったな」と感じました。あそこまでのエンターテイメント、演出はテーマーパークや遊園地に通じるものがありましたね。

 ときに幻想的な雰囲気のもと、さまざまなショーが行われる同じ会場で、F1という世界最高峰のマシン、そして世界最高峰のドライバーたちがしのぎを削るレースが行われる対比も、面白いと感じました。人が楽しめる、夢中になれるコンテンツが多様化する中、レース内容が面白いだけでは、モータースポーツを観てくださる方は増えてくれない時代です。

 モータースポーツが多様なコンテンツの中で生き残っていくためには、今後もさまざまな方向性を探っていかなければいけません。今は過渡期であり、重要なタイミングなのかもしれないと、改めて感じたグランプリでした。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。2023年はドライバーとしてスーパー耐久シリーズST-TCRクラスへ参戦。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


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