最終戦アブダビGPは、一見すればメルセデスAMG同士の静かで地味な優勝争いだったように見えたかもしれない。しかし実際には両タイトルが確定し自由なレースが可能になって以来初めての直接対決であり、息詰まる駆け引きが繰り広げられていた。
ルイス・ハミルトン(以下、HAM)「すごく風が強いね」
メルセデス(以下、MGP)「ターン2が向かい風で、ターン8は昨日よりも追い風が強い」
HAM「温度は下がってきている?」
MGP「グランドスタンドの陰になったから、これから下がってくると思う」
ヤスマリーナは海と砂漠のど真ん中にあるため風が強く、なおかつグランドスタンドやホテルの建物の影響で場所によって風向きが異なる。さらに夕陽が沈み路面温度も刻々と下がって変化していく。コースオフやスピンが随所で見られるのは、そんなコンディション変化に対する繊細なドライビングが求められるからだ。
レースはバルテリ・ボッタスのリードで始まったが、ルイス・ハミルトンも2秒以内の差で追走し逆転のチャンスを窺う。
MGP「ターン9では2速ギヤを使ってくれ。ターボのバイブレーションを防ぐためだ。残りは44周だ」
2人ともにクルージングではなく、全身全霊の走り。その結果がギャップ1秒台の攻防だった。16周目、ハミルトンは集中するために無線交信も拒絶するほどだった。