2018年、ホンダF1はトロロッソと組んで新しいスタートを切った。新プロジェクトの成功のカギを握る期待の新人ピエール・ガスリーのグランプリウイークエンドに密着し、ガスリーとトロロッソ・ホンダの戦いの舞台裏を伝える。
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シンガポールのピエール・ガスリーは、かなり苛立っていた。
この市街地サーキットなら好成績が期待できると、意気揚々と乗り込んできたガスリー。ところがトロロッソ・ホンダは、初日フリー走行からまったく速さが発揮できない。大幅にセッティングを変えた二日目も、予選Q1でようやく見えかけた復活の兆しが、Q2ではすっかり影を潜めてしまう。その結果、Q2進出組では最下位の15番手に終わった。
そこで決勝レースでは、ギャンブルに打って出た。大部分のドライバーがウルトラソフトを選択するなか、ハイパーソフトを履く起死回生の策に出たのだ。スタートで一気に順位を上げ、そこからできるだけタイヤ交換を遅らせて、ライバルたちがピットインする間にポイント圏内に滑り込む作戦だった。
モナコGPでも同じハイパーソフトを履き、スタートダッシュこそできなかったものの、その後は安定したペースを維持し、最長スティントを走り切って7位入賞を果たした。GP2時代に気まぐれなピレリの特性にさんざん苦労して以来、タイヤを長く持たせる技術は誰にも負けないという自負があった。
得意のスタートをミスなく決め、一気にザウバーの2台を抜き去っていったガスリー。前方ではエステバン・オコンが同士討ちで早々にリタイアしており、早くも12番手に上がった。ポイント獲得の可能性が、俄然現実味を増した。