2018年のアブダビGPを最後に一旦、F1から離れるフェルナンド・アロンソ。最終戦の地、ヤス・マリーナ・サーキットではドライバーをはじめ、エンジニアなどさまざまな人たちがアロンソに対してコメントを発していた。
まずは、アロンソがフェラーリ時代に一緒に仕事をした仲間からだ。フェラーリでチーフデザイナーを務めていたニコラス・トンバジス(現在はFIAのシングルシーター技術部門責任者)は、アロンソのすごさを次のように表現した。
「フェルナンドがほかのドライバーと一線を画しているのは、マシンが決して最高ではない状態でも勝ってしまうところだ。有名なところでは、2012年のバレンシアで行われたヨーロッパGPがそうだ。予選11番手から優勝するなんていうのは、もうマシンではなく、ドライバーの腕以外の何物でもない」
「もうひとつは2013年のスペインGP。あのときの予選は5番手だが、前はメルセデスの2台とレッドブルの2台。バルセロナは抜きどころがほとんどないため、普通なら逆転は難しい状況だった」
「ところが、フェルナンドは4回ストップを決めて逆転優勝した。たとえ優勝できなくても、最後までレースを諦めずにひとつでもポジションを上げようとする姿勢もすごかった。彼はマシンのポテンシャルを100%ではなく、120%を引き出してレースができる類まれなドライバーだ」
そのアロンソのフェラーリ時代、レースエンジニアを務めていたアンドレア・ステラ(現在はマクラーレンのパフォーマンスディレクター)は、隠れたベストレースを紹介してくれた。
「フェルナンドのベストレースはいくつもあるが、私にとっては2010年のマレーシアGPが忘れられない思い出だ。予選前に突然降ったスコールによって、我々は路面の変化を見誤り、2台そろってQ1落ちさせてしまった。19番手からスタートしたフェルナンドだが、レース中盤にはポイント圏内(9番手)を走行していた」
「しかしそこでクラッチに問題が発生して、シフトチェンジがスムーズに行えないという状況に陥った。確か2速と4速が使えない状況だったと思う。我々はリタイアも覚悟したが、フェルナンドは自分で最適な回転数になるようアクセルワークを調整して、2つのギヤが使えないままレースを続けたんだ」
「最終的にフェルナンドは別の原因で発生したエンジントラブルでリタイアしたが、あれは神業だった。もしあのまま9位でチェッカーフラッグを受けて2点を加えていれば、あの年の最終戦(※1)ではもっと違ったレース戦略を立てることができていただけに、本当に悔しい」
(※1)2010年はレッドブルのセバスチャン・ベッテルと最終戦までチャンピオン争いを繰り広げ、アロンソはわずか4点差で王座を逃した。