現役日本人F1エンジニアとして、ハースF1でチーフを務める小松礼雄エンジニア。F1速報サイトで好評連載中のコラム、今回は最終戦アブダビGPのふり返りと2018年シーズンを総括。現在のF1で起きている真相と、現場エンジニアの本音を読者のみなさまにお届けします。
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最終戦アブダビGPは、僕らのマシンにとって得意なサーキットではないので、ここでうまく戦えるかどうかが2019年シーズンにつながる重要な1戦だと考えていました。
前戦ブラジルGPの時点からアブダビに向けて低速コーナーの改善に取り組んできたわけですが、それでもウルトラソフトを履いたFP1はオーバーステアがかなりひどかったです。想定範囲内ではありましたけれども、やはりウチのクルマはこの様なサーキットでは良くないとういうことを再認識されられました。
しかし、ここからが勝負です。ハイパーソフトに履き替え、マシンのバランスを大きく変えた結果、うまく修正することできて一発はなんとか好タイムを出すことができました。
以前は2、3回のランを使わないとこの様な状況に対応できていませんでしたが、最終戦では1回のランですぐに的確にクルマを見直してタイムを出せました。この様に対応能力が向上したのが今シーズンの大きな成長のひとつだと思います。日が暮れて温度が下がるFP2でも一発、ロングランともにタイムもよく、自信を持って予選に臨むことができました。
Q1は、できればニュータイヤを1セットだけで通りたいと考えていました。そうすればQ3で2セットをニュータイヤを使えるため、今回のマシンの出来ならば、予選7、8番手を獲得できるという手応えがあったからです。
ロマン(グロージャン)はそのプラン通りに1セット目でQ1通過に十分なタイムを記録しましたが、ケビン(マグヌッセン)はバックストレート手前のコーナーで膨み、1回目のアタックを失敗したので2セット目のタイヤも使わざるを得ませんでした。
その2回目のアタックも良くなく、ロマンから0.359秒落ちのタイムしか出せませんでした。(ピエール)ガスリーのパワーユニット・トラブルがあり、何とかQ1を15番手で通過することができましが、これは正直ラッキーなだけでした。最終コーナーの手前でガスリーはコンマ4秒ケビンのタイムを上回っていたので、彼が問題なく走り終えていればケビンは確実にQ1落ちでした。
さらに、ケビンは続くQ2の1回目のアタックでコースオフしてクルマを痛めると、その影響で2回目もタイムが上がらずにQ2敗退。リスクを取って攻めるべきところと、そうではないところの見極めがまだまだです。これは2019年シーズンへ向けての大きな課題です。
一方のロマンは、その後順調にQ2を突破し、Q3の1回目のアタックで素晴らしい走りを見せてくれました。トップ3チームのドライバーに続く1分36秒192を記録し、彼の今までの予選のなかでもベストのひとつだと思います。
ターン5、8の進入ではかなり攻めていて、ピットウォールにいる僕としては正直、冷や冷やしながらデータを見ていました。普通なら、あそこまでアグレッシブにいってしまうと辻褄が合わなくなってミスをしてしまうものですが、ロマンはうまくまとめて、見事なタイムを出してくれました。本当にすごかったです。彼が本来持っている速さを改めて認識させられました。
ただし翌日の決勝では、逆に彼の課題が出てしまいました。アメリカGP、ブラジルGPに続いて、1周目にまたアクシデント。今回はルノーの(ニコ)ヒュルケンベルグと接触してしまいました。