今回の開幕前テストでは、ホンダへの注目度がこれまでよりはるかに高くなっていることを感じた。
たとえばガレージからピットロードに田辺豊治テクニカルディレクターが出てくると、カメラマンたちが一斉にレンズを向ける。開幕前テストでは異例の田辺テクニカルディレクターの英語会見を開いたのも、外国人ジャーナリストたちからの要望に応えてのことだった。当日の会見はダニエル・リカルド(ルノー)の囲み取材と時間が重なっていたにもかかわらず、多くのジャーナリストが詰めかけて活発な質疑応答になった。
トップチームのレッドブルとワークス契約を結んだのだから、注目度が上がるのはある意味当然ではある。それに加えてクリスチャン・ホーナー代表やヘルムート・マルコ博士らレッドブル首脳陣が、繰り返しホンダを賞賛しているのも大きかったと思う。
さらに今回のテストでは、3日目にトロロッソのダニール・クビアトが総合トップタイムを叩き出し、最終日の午前中にはアレックス・アルボンが再び首位に立った。しかしだからといってホンダ製パワーユニットがメルセデスやフェラーリより、パワフルだとは誰も思っていない。何よりテスト1週目のラップタイムにほとんど意味がないことは、取材経験豊富な彼らにわかっていないはずはない。それでもついつい、ホンダの動向を注視してしまう。
それはなぜなのか、納得の行く理由を探しているうちに、彼らの多くが1980〜90年代のマクラーレン・ホンダの圧倒的な強さを脳裏に刻み込んでいる世代だと気がついた。つまりは、強いホンダを懐かしむ気持ちがあるようなのだ。21世紀のマクラーレン・ホンダには、完全に裏切られてしまった。しかしレッドブル・ホンダなら、やってくれるのではないか。そんな期待が、今年の注目に繋がっているのかもしれない。
冬のテスト前半を終えたあとのホンダの日本語プレスリリースには、「4454.835km。これがホンダのパワーユニットを搭載する2台のマシンが、4日間で走破した距離の合計です」という、誇らしげな一文が載っていた。
周回数に直せば957周。レッドブルが475周、トロロッソが482周と両チームがほぼ肩を並べ、それぞれスペインGP7レース分に匹敵する距離を走り切った。特に途中でパワーユニット交換をしなかったトロロッソは、年間21戦を3基で賄う現行レギュレーションを最初のテストで見事にクリアしたことになる。確かにまだフルパワーでは走っていないが、その間細かい不具合しか出なかったというのは素晴らしい信頼性というべきだろう。