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F1 ニュース

投稿日: 2019.07.06 16:44
更新日: 2019.07.05 19:09

“最後の1勝”から13年。マックス・フェルスタッペンがホンダにもたらした1勝の舞台裏

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F1 | “最後の1勝”から13年。マックス・フェルスタッペンがホンダにもたらした1勝の舞台裏

 表彰台に立ったマックス・フェルスタッペンがレッドブル・ホンダのスタッフたちを見下ろしながら、左胸のホンダマークを何度も指差した。

 ホンダという世界的企業に対する、単なる追従と見た人もいることだろう。しかしレース後、各チームのドライバーやエンジニアたちは口々に、今年のオーストリアGPがいかに過酷な戦いだったかを語っていた。

 そのなかでホンダの果たした役割の大きさは、決して小さなものではない。フェルスタッペンはそれを誰よりも感じていた。

 レースの勝敗を大きく左右したのは、レッドブルリンクを襲った異常な暑さだった。予選の行なわれた土曜日まではそこまで暑くはなかったものの(それでも例年よりは充分に暑かったが)、日曜日は文字どおりの酷暑に見舞われた。

 レース開始の午後3時10分で、気温33度、路面温度51度。これはあくまで日陰で測定された温度であり、炎天下のアスファルトは優に70度を超えていたはずだ。コースサイドでまともに照り返しを浴びながら撮影していたカメラマンの同僚は、「昨日と同じ場所とは思えないほど暑かった」と言っていた。

 そんなコンディションの影響をもろに受け、パフォーマンスが一気に低下するのが、タイヤ、ブレーキ、そしてパワーユニットである。タイヤはすぐに劣化、ブレーキは過熱して効かなくなり、パワーユニットはオーバーヒートするため想定したパワーが出せなくなる。

 開幕8連勝中だったメルセデスがいとも簡単にレッドブル・ホンダに抜かれ、引き離されていったのは、まさに冷却に問題が出たからだった。一方、フェラーリの失速は主にタイヤのタレだったという。

 そんななか、上位陣でレッドブルだけはタイヤもブレーキもパワーユニットも本来の性能を発揮し続けた。

 じつはこの週末、ホンダの山本雅史F1マネージングディレクター(MD)と田辺豊治F1テクニカルディレクター(TD)は、事前に何度も話し合いを重ねていた。「カナダとフランスの苦戦を受け、レッドブルの地元であるここでは、何としても結果を出したい。ホンダとしても、彼らを最大限支えたかった。そのためにできることは何でもしようと思った」と、山本MDは語っている。

「サーキットに着くなり、山本さんが『おい、今週末は勝ちにいくからな』と言うんですよ」と語るのは、ホンダF1の鈴木悠介広報担当である。

「突然何を言い出すんだろうとそのときは思ったんですが、公言どおりになったのには驚きました。それだけ強い気持ちで、レースに臨んだということなんでしょうね」

■勝利を引き寄せたピース

 田辺TDとの話のなかで何を決めたのかまでは、山本MDは話してくれなかったが、欧州全域を襲っていた熱波を念頭に、熱対策を重点的に行なったであろうことは容易に想像がつく。

 たとえばレース中のフェルスタッペンは大部分の周回で先行するライバルを追う展開であり、完全なクリーンエアだったことはほとんどなかった。それでも冷却の問題に見舞われなかったのは、事前の対策の効果もあったはずだ。

 もちろんフェルスタッペンの思い切りのいいドライビングも大きかった。先行車を抜きあぐねている時間が長いと、すぐに冷却に影響が出てしまう。それがフェルスタッペンのように前車に近づくや躊躇なくスパッと抜き去っていく走りは、パワーユニットに余計な負荷をかけない。

 加えて、序盤からあれだけアグレッシブにオーバーテイクを繰り返しながら、最後までタイヤをマネージングし、ペースが落ちることもなかった。

「ホンダが何かしらの貢献をできたことはもちろんうれしいですが、マックスなしには今回の勝利はなかった。とんでもないドライバーですよ。しかもまだ21歳でしょう。これからどこまで進化して行くのか、恐ろしいですね」と、山本MDは感嘆しきりだった。

 表彰台にレッドブルレーシングの誰かではなく、ホンダの田辺TDが上がったのも大きなサプライズだった。これまた裏話だが、決勝日のスタート前、すでにこれは決まっていた。山本MDがクリスチャン・ホーナー代表、ヘルムート・マルコ博士と共に食事をした際、「優勝したら、ホンダの誰かが上がってくれ」とマルコ博士から言われたという。それに対し山本MDは、こう即答した。

「これまでずっと苦労してきた、田辺を上げましょう」

 そしてフェルスタッペンが、見事に最初のチェッカーを受けた。しかしレース終盤、69周目でのシャルル・ルクレールとの攻防が審議対象となり、カナダからの一連の流れからすれば、5秒ペナルティで2位降格の可能性も充分に考えられた。

 レース後、2時間が過ぎても依然として審議結果は出ない。待ちきれずに僕たちはレッドブル・ホンダ初優勝という前提で、田辺TDから話を聞き始めた。するとその最中に広報担当が「裁定が出ました。優勝確定です」という吉報を持ってきたのだ。

「私自身はまだ2年しかやってませんが、第4期活動を始めた先輩たちはようやく作り上げたパワーユニットに最初は火も入らず徹夜で作業し、始動したと思ってもすぐ壊れ、あるいはパワー不足を批判されてきた。彼らのそんな苦労があってこその、今回の勝利だと思っています」

 そう語る田辺TDの目が少し赤かったのは、フェルスタッペンからシャンパンを浴びたせいばかりではなかっただろう。


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