今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフレースエンジニア。サマーブレイク前の最後の2レースは、第11戦ドイツGPでダブル入賞と同士討ちという悲喜こもごもな結果に終わり、第12戦ハンガリーGPは再びノーポイント。なかなか思うような結果の出ないシーズンだが、小松エンジニアはこの前半戦をどのように評価し、またそれを後半戦に繋げていくのだろうか。現場の事情をお伝えします。
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サマーブレイク前の最後の2連戦であるドイツGPとハンガリーGPが終わりましたが、この2レースについての感想は、良くも悪くも『予想通り』という状況でした。
まずはドイツGPですが、それまでのレースに続いてロマン(グロージャン)が開幕戦仕様のクルマを、ケビン(マグヌッセン)が最新仕様のクルマをそれぞれ走らせました。ケビンのクルマに関しては、ドイツでもう一度仕様を変更したのですが、これはもとも予定されていたアップデートです。
これを投入したからといって大きな変化があるとは予想していませんでしたが、最新仕様のクルマは、すべての条件が整った時の性能は開幕戦仕様のクルマより明らかに高いということが確認できました。これはドイツGPのフリー走行3回目(ケビンが5番手、ロマンが10番手)、ハンガリーGPのフリー走行や予選Q1(ケビンが4番手、ロマンが15番手)ではっきりとわかりました。
ドイツGPは2019年シーズン初めてのウエットレースとなりましたが、一言で言えばものすごく忙しかったです。レース中は刻々と状況が変わっていくなかで、ウチのクルマのラップタイムと他のチームのラップタイムを見ながら、路面状況の変化と天気予報のレーダーをできる限り正確に把握し、今履いているタイヤでどれくらいひっぱるのか、またタイヤを履き替える場合はどれにしようかなどを常に考えていました。1周ごとに次の周のことを考えなければいけなかったので、1時間半も予選をやっているような感覚でしたね。
とにかくレース中は忙しくて目の前でコロコロと変わる状況に対応するだけで手一杯でしたが、僕は個人的に予選が好きなので、この予選の様なレースが終わった後には「楽しいレースだった」と思え、この仕事をしてて良かったなと思いました。
反省点となったのは、ケビンのタイヤ戦略です。彼は最初のスティントで他のドライバーよりも長くフルウエットタイヤを履いていましたが、これは彼がドライタイヤで走れるようになるまでフルウエットタイヤで走るというギャンブルを望んだからでした。そしてそれを許して8周も引っぱってしまったのはよくなかったです。
あのような状況において僕らピットウォール側が欲しい情報というのは、『今のこの路面では、どのタイヤが最も適しているのか』ということだけです。しかし彼は現情をありのまま伝えるのではなく、自分がどれだけリスクをとりたいかということを重点的に伝えてきました。
以前にもケビンには話しましたが、特にウエットレースではドライバーにはレースの全体像が見えていないことが普通で、それを把握できているのは僕たちエンジニア側です。逆に僕らが正確に分かりづらいのは、『今この瞬間の路面状態に最も適しているタイヤは何か』ということです。
もちろん、セクタータイムなどの数字は常に追っています。しかし自分たちで先陣を切って正しい判断をするためには、数字には現れてこないドライバーからの情報が必要なので、とにかく純粋な情報だけを伝えてくれと言いましたし、ハンガリーGPでもそう伝えました。フルウエットのまま彼をあれだけ走らせ、タイヤ交換のタイミングが遅くなってしまったことは反省しなければいけません。