日曜日、10時50分から1分間の黙祷が行われました。
土曜日のFIA-F2、レース1の2周目のアクシデントで、アントワーヌ・ユベール選手が亡くなりました。
ユベール選手は、2017年にGP3で福住選手とチームメイトだったのでARTのガレージで撮影していると一緒にいたのを覚えているし、2018年にはGP3チャンピオンを獲得し、今年アーデンからF2に参戦を開始したところでした。
この日曜日のF2が中止になり、F3のレース前のグリッドの最前列。
ドライバー、関係者が集合していて、その中心にはユベール選手のお母さんと弟がヘルメットを持っています。
重く悲しみに包まれたグリッドを僕はこれまで経験したことがありません。
それは、金曜、土曜と快晴だったスパフランコルシャンの空に雲が立ち込めたせいで、さらにそう感じたのかもしれません。
後ろで、目頭を抑えるのは、現在シリーズトップのニック・デ・フリース選手。
今年、オールージュでの撮影場所の制限が多くなって困っていたのですが、同業のカメラマンがこのアングルを撮影できていたので、F1の予選の始まる前に現地のマーシャルさんに聞いて許可をもらって撮影し、続いて行われるF2のレースもスパならではというこの場所で松下信治選手と佐藤万璃音選手を撮ろうと決めたわけです。
そして、この写真は2周目。
黄色いマシンが9番手のチョウ・グアンユー選手。
その後ろがジュリアーノ・アレジ選手です、分かりずらいかもしれませんが、この少し前からマシンの体制を崩していてこの後スピンモードに入っていきました。
ユベール選手は、その2台後ろのピンク色のマシン。1台挟んで白いマシンが、ファン・マニエル・コレア選手。
この直後、僕の背後から、とんでもなく大きな炸裂音がしました。
振り返ってみると、バラバラになった破片が散乱していました。
望遠レンズで撮りました。
これ以上、近づくことはしませんでした。
長く、この世界で写真を撮っていると、クラッシュが目の前であることは何度となく経験してきました。
でも今回は、普通ではない何かを直感で感じるほどの衝撃がありました。
この場に留まることを辛く感じ、すぐパドックに向かいましたので、この後の作業がどうなったかは分かりません。
モータースポーツの歴史は、みなさんご存知のように、これまで何度も、ある日突然大切な選手を奪い去ってしまう悲劇が繰り返されています。
とてつもないエネルギーを持った乗り物で競争するのですから、何かの原因で制御出来なくなった時、さらに不運が重なると大きな事故に繋がってしまいます、もちろん年々進歩する安全基準でも防げない事故は残念ながらモータースポーツという競技がある限りなくなることはないでしょう。
僕自身、今回は、とてもショックでした。
あの鈍くて低い炸裂音が、いつまでもドーンと胸の奥にあるような感覚。
22歳の若く才能溢れるドライバーの命が消えてしまったという事実を、僕自身がどう処理していいのか分かりませんでしたし、この写真を公開するべきでないとも思いました。
今もいいのかどうか分かりません。
でも一つ言えるのは、このようなことが起こる可能性は毎レース、どんなカテゴリーでも起こり得るという事です。
2輪4輪問わず、このような悲劇が起こる可能性は絶対0ではありません。
選手自身もチームもまたはレース運営の皆さんの安全対策をもう一度考え直す機会になればいいなと思います。
モータースポーツは、ファンの人にも我々にも、もちろん選手自身にもメカニックの方エンジニアの方、みんなに大きな喜びや楽しみを与えてくれています。怪我なく表彰式を迎えるといういつもの時間はとてつもなく幸せなんだと思います。