2019年F1第20戦ブラジルGPでホンダ製パワーユニットを搭載したレッドブルで見事な優勝を飾ったマックス・フェルスタッペン。同様にホンダエンジンを搭載し28年前にギヤを失いながらも優勝を勝ち取ったアイルトン・セナの神レースをF1ジャーナリストの今宮純氏が回想する。
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2015年に復帰してからホンダ101戦目のブラジルGPで、ホンダ製パワーユニット『RA619H』が1-2フィニッシュを成し遂げた。レッドブルのフェルスタッペンが王者ルイス・ハミルトンとのマッレースを勝ち抜き、トロロッソのピエール・ガスリーも最終周のゴールラインで振りきった。最強PUに君臨してきたメルセデスを倒した彼らによる、POWERED by HONDA復活戦だった。
若き活力(勝つ力)をインテルラゴスでいかんなく発揮したフェルスタッペン。8勝目となるベストレース。ポールポジションから天性のスピードを見せつけるドライビングだった。
──28年前の1991年ブラジルGPを思い出さずにはいられない。独走する1位セナが終盤ギヤトラブルに見舞われつづけ、信じがたい<神レース>をつらぬいた。71周ポール・トゥー・ウイン。全周回リードしたままゴールにたどりつく。
ウイニングランで初めて(現在のように)無線の肉声がTVオンエアされた。インテルラゴスから世界中に流れたセナの肉声はたんなる喜びの言葉ではなかった。まさに野獣の雄叫び……。全身全霊を打ちこんだ1時間38分28秒128。右腕は痺れパルク・フェルメでコクピットから自力で出られず、グローブを外すこともできなかった。
突然、50周目から4速ギヤが入らなくなった。それまでの1分21秒台ペースが1分22秒350に下がると、51周目1分22秒816、52周目1分23秒811(後続を引き離しているセナがペース・コントロールしているのだろうと思えたのだが)。
それは違った。4速が使えないために3速⇔5速のアップ&ダウン・シフト操作を始めていたのだ。そうすることで“2秒落ち”のラップタイムをキープ、ところが61周目からは3速と5速もだめになった。1分26秒449から62周目1分27秒487、65周目1分28秒305……。
最終盤、残るは数周。セナはなんとしても6速のままでフィニッシュしようと決意。2位パトレーゼは一時40秒後方にいたがスローペースにおちいったセナを追い、1分21~22秒台で急接近してきた。1周7秒ものタイム差だ。約7万人の観衆は騒然となり、総立ちでセナ・コールを叫ぶ。
コクピットで彼はどうしていたのか。現在とほぼ同じレイアウトの低速コーナー、ヘアピンではホンダV12・RA121Eエンジンはおよそ2000回転まで下がった。6速のままなのでエンジンブレーキは効かない。1コーナーでは300KMHオーバーから70KMHまで減速しなければならない。セナはそれをずっとつづけた。右手でシフトレバーを押さえつけながら。