2019年のF1最終戦アブダビGPは、2020年のシートを獲得することができなかったニコ・ヒュルケンベルグにとって、F1ドライバーとして最後になるかもしれないレースだった。そのため、グリッド上ではルノーのスタッフがヒュルケンベルグに感謝の意を込めて、ヒュルケンベルグの髪型を模したカツラをかぶって記念撮影を行い、最後になるかもしれないレースに臨んだ。
しかし、そのレースでヒュルケンベルグは入賞圏内を走行しながら、立て続けにオーバーテイクを許して、ポイント圏外でレースを終えた。レース後にドライバーたちがやってくるミックスゾーンには大勢のメディアがヒュルケンベルグの生を聞こうと集まったが、ヒュルケンベルグはなかなかやってこない。
「何か、祝福でも受けているのだろうか?」と思いながら、目の前にやってきた表彰台を逃したほかのドライバーたちのインタビューを聞く。しかし、彼らが一通り通り過ぎて行った後も、ヒュルケンベルグがミックスゾーンに姿を見せることはなかった。
しばらくして、トップ3のドライバーたちがミックスゾーンに姿を現したときだった。ようやく、広報に連れられて、ヒュルケンベルグがやってきた。いったい、何があったのか?
「いや~、参ったよ。ドーピングに引っ掛かったちゃった(笑)」
最後のレースになるかもしれないが、検査は検査。ドーピング・テストの中立性の高さを改めて感じたハプニングだった。
そのドーピング検査のおかげで、ヒュルケンベルグは表彰台を獲得したドライバーたちと同じタイミングで、メディアの取材をミックスゾーンで受けることとなった。まずはテレビ局が集まる場所へ行き、取材を受けるヒュルケンベルグを遠目に見ながら、待っていると、たまたま隣同士になったマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がヒュルケンベルグの肩を叩いて10年間の活躍を称えていた。
われわれ紙媒体のメディアが集まる一角にヒュルケンベルグがやってきたのは最後のこと。非常に穏やかな表情で記者たちの質問に答えるヒュルケンベルグの元へ、もうひとり労いに来たドライバーがいた。それは、ルイス・ハミルトン(メルセデス)。ふたりには、ちょっとした因縁があった。