更新日: 2020.03.05 19:39
『ハイ・レーキ』採用のフェラーリSF1000、車体&PUに課題あり。大幅改善も必要か/全チーム戦力分析(3)
スペインのバルセロナ-カタロニア・サーキットで行われた2回のテストを終えて、各チームの新型マシンに様々な特徴が見えてきた。今回は2020年F1開幕戦オーストラリアGPに向け各チームの実力を数値化して分析。連載第3回はスクーデリア・フェラーリだ。
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■フェラーリのチーム戦力:100点満点中88点
■テストでの最速タイム:1分16秒360 4番手/全10チーム中(シャルル・ルクレール/C5タイヤ/テスト第2回目・最終日午前)
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2020年のフェラーリの新車『SF1000』は、2019年のマシンである『SF90』の弱点を補強したマシンといえる。
SF90の弱点は、フロントウイングのレギュレーション変更によって、タイヤ周辺で発生する乱流を後方へ吹き飛ばすアウトウォッシュによるフロアでのダウンフォース獲得を優先させたために、前後のウイングでのダウンフォースが犠牲になり、結果的にダウンフォース不足を招いたことだ。
フェラーリはフロントウイングのフラップの形状を前方から見て『へ』の字を描くユニークなデザインを昨年採用していたが、それはSF1000にもほぼそのまま継承されている。それでは、どのように弱点を補強してきたのだろうか。その答えは約30mm短くなったショートホイールベースにある。2019年のフェラーリのホイールベースは3653mm(10チーム中6番目に長い)だったが、30mm短くなったことで、3623mmとなったと思われる。
フェラーリがホイールベースを短くした理由は、レーキ角を大きくするためだ。リヤの車高が同じなら、ロングホイールベースよりショートホイールベースのほうが角度がつく。つまり、フェラーリはレッドブルの『ハイ・レーキ』コンセプトを採用してきたのである。
サイドポンツーンの処理も、レッドブル・タイプに寄せてきた。下側を大きくえぐるアンダーカットを控えめにして、サイドポンツーン後方を下げるロールバックダウン型に変更。
さらにバージボードエリアを見直し、昨年は1枚で逆L字型となつていたポッドフィンも、ショルダーの部分で2分割となり、サイドポンツーンの入口付近のデザインも一新された。
床下でのダウンフォースをより増大させるためにはレーキ角を大きくすることは決して間違ったアイディアではない。そのことは、プレシーズンテストが行われたカタロニア・サーキットでSF1000を走らせたセバスチャン・ベッテルも認めている。
「マシンはコーナーで良くなった。特にセクター3はいい」
ハイ・レーキ・コンセプトによって、SF90の弱点はある程度、克服できた。しかし弱点を克服しようとするがあまり、SF90の長所も同時に消されてしまった。
「でもそれによって、少しドラッグが増え、ストレートが前よりも遅くなってしまった。僕たちにはまだやるべきことがある」(ベッテル)
レーキ角を大きくすれば、マシンが前傾姿勢となり、その状態のままだと空気抵抗が大きくなる。そのため、ハイ・レーキ・コンセプトを採用しているマシンは、車速が高くなるストレートではリアが沈むようにリヤサスペンションを軟らか目に設定するのだが、その調整にフェラーリは苦しんでいるようだ。
そこでフェラーリは2回目のテストに、アップデートされたリヤウイングを投入。それはメインフラップがややスプーン型になったダウンフォースを維持しつつ、空気抵抗を減らした空力効率を向上させたリヤウイングだった。
今年のフェラーリのマシンSF1000がストレートで遅い理由は、ほかにもある。それは、パワーユニットの性能不足だ。そのことは、チーム代表のマティア・ビノットも認めている。
「ストレートスピードはドラッグとの関係も考慮しなければならないが、エンジンの全体的なパフォーマンスが昨年ほど強力ではないことをわれわれは調べる必要がある」
もしこれが本当なら、今年のフェラーリは車体にもパワーユニットにも課題を抱えたマシンということになり、タイトルを争うには、かなり大きなアップデートが必要になるだろう。