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F1 ニュース

投稿日: 2020.03.23 07:08

オーストラリアGP中止発表までの裏側。三者が15時間にらみ合い、ファンより金を優先したF1/海外ライターコラム

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F1 | オーストラリアGP中止発表までの裏側。三者が15時間にらみ合い、ファンより金を優先したF1/海外ライターコラム

 2020年F1オーストラリアGPの中止が発表されたのは、金曜フリープラクティスがスタートする約2時間前だった。マクラーレンのスタッフが新型コロナウイルス感染の疑いで検査を受けたことが明らかになったのが水曜、陽性判断が出たのは木曜だった。グランプリ中止は避けられないとの見方が大勢を占めるなか、なぜこれほど決断と発表が遅れたのか。意思決定者の三者の思惑、各チームの真意を、F1ジャーナリスト、ルイス・バスコンセロスが明かす。

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 F1のCEOチェイス・キャリーの記者会見を待ち続ける間、私はジェシー・Jの『Price Tag』の歌詞を変えて「it’s all about the money, money, money」とエンドレスで口ずさんでいた。キャリーCEOは、詰めかけたメディアを長々と待たせた後、アルバートパーク・サーキットのパドック外で、ようやく口を開き、「オーストラリアGPの中止を発表するのに、なぜこれほど時間がかかったか」の説明を行った。中止が発表されたのは、フリープラクティス1回目が始まる約2時間前だったのだ。

 驚くべきことに、それまでは、中国GPが延期された以外は予定どおりにシーズンが進むものとされていた。しかし、マクラーレンのチームメンバーがCOVID-19に罹患していると診断された時点で、オーストラリアGPを中止すべきことは明らかだった。

 その後の15時間、F1コミュニティのなかで最も頻繁に飛び交ったのは「責任」という単語だった。中止に関する意思決定プロセスにかかわるFIA、フォーミュラワン・グループ、ビクトリア州政府と連携するオーストラリア・グランプリ・コーポレーション(AGPC)の三者は、それぞれ法的責任を問われることを恐れて、決断を下そうとしなかったのだ。

 オーストラリアGPは、AGPCの責任下にあるが、費用を負担しているビクトリア州政府のすべての指示に従わなければならない。そのためAGPC職員は常に政府と連絡を取り合っていた。彼らが中止を決断した場合、5000万USドルから5500万USドル(約55億4000万円から61億円)におよぶグランプリ開催料を失う可能性があった。その上、チケットの全額払い戻しを行うと、さらに1000万USドルから1200万USドル(約11億円から13億3000万円)を失う。オーストラリアGPが常に野党の攻撃の対象になっていることを考えると、政府はそれほどの金を失うリスクを冒すことは避けたいと考えていたはずだ。

 フォーミュラワン・グループも、自分が中止の決断を下すことは望んでいなかった。彼らが決断した場合、プロモーターが支払う料金を返金しなければならず、訴訟を起こされた場合に責任を負う立場に立たなければならなくなる。一方、FIAに関しては、その時、トップの人間が不在だった。会長ジャン・トッドは母国フランスでの社交イベントに出席するのに忙しかったのだ(彼はその写真を自慢げにTwitterで公開していた)。

 こうして三者はにらみ合いを続け、相手が動くのを待ち続けた。まるで、互いに武器を向け合ったまま誰も動けない、いわゆる“メキシカン・スタンドオフ”のような状態だった。彼らがそうしている間に、フォーミュラワン自体が、世界中の人々から集中砲火を浴びる事態になってしまったのだった……。

■約半数のチームが開催を望んでいた


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